#title エスペシフィズモ #subtitle ラテンアメリカにおける民衆運動と革命的組織を建設するアナキストの実践 #author アダム・ウィーバー #LISTtitle エスペシフィズモ #date 2009 #source https://podepopuinfo.wordpress.com/2017/10/28/最初のブログ投稿/(2023年4月21日検索) #lang ja #pubdate 2023-04-20T16:09:58 #authors Adam Weaver #topics エスペシフィズモ, 南米 #notes ウルグアイに始まり、ラテンアメリカ国民で実践が続いているアナキスト組織論であるエスペシフィズモを説明した文章を訳しました
原文はこちら [[https://libcom.org/library/especifismo-anarchist-praxis-building-popular-movements-revolutionary-organization-south][Especifismo: The anarchist praxis of building popular movements and revolutionary organization in South America by Adam Weaver]](ぽでぽぷ・インフォより) *** エスペシフィズモの歴史と理論の説明および綱領主義との類似点と相違点を記述する 広範囲なアナキスト運動のなかで、我々は組織化され規律のあるアナキストの政治的組織の必要性を訴える伝統に立脚している。第1インターナショナルにおける「同盟」はこのモデルの初期の例であるが、同じような多くの勢力のひとつであった。1926年には、、ネストル=マフノ、ピーター=アルシーノフおよびイダ=メットが「リバータリアン共産主義者の組織綱領」(おそらく20世紀アナキズムにおける最も重要なテキスト)という古典の中で、この手法に再言及した。南アフリカと類似点が多い南アメリカでは、この伝統がエスペシフィズモとして発展し、それがゆえ我々もこの重要なかけらを保持しているのだ。 世界中で、大衆運動におけるアナキストの関与は、アナキスト特有の組織の発展と並んで急増している。この傾向はアナキズムが運動の中のダイナミックな政治勢力として正当性を再獲得する一助となっており、この光を受けて50年に渡る南アメリカのアナキストの経験あら生まれた概念であるエスペシフィズモが世界に流通しだした。多くのアナキストがエスペシフィズモの考えの多くが既に馴染みがある内容であるとは言え、アナキズム思想や実践に対する斬新な考えとして捉えるべきである。 エスペシフィズモを掲げた最初の団体はウルグアイアナキスト連合(FAU)である(当時は理論より実践として発展した)。FAUは1956年に、アナキスト特有の組織を作りたいというアナキスト活動家により創設された。ウルグアイの独裁政権を生き延びたFAUは、1980年代に他の南アメリカのアナキスト革命家と連絡を取るようになり影響を与えるようになる。FAUの活動はブラジルのそれぞれの地域でガウシャアナキスト連合(FAG)、カボクラアナキスト連合(FACA)、およびリオ・デ・ジャネイロアナキスト連合(FARJ)、そしてアルゼンチンのアウカ(Rebel)の創設を助けた。 エスペシフィズモの鍵となる概念は後に詳述するが、簡単に3つに分けることができる。 1考えや実践の結合に基づいたアナキスト特有の組織を作る必要性 2アナキスト特有の組織を通して政治的事業および組織化事業の戦略を理論化し発展させること 3自律的な民衆の社会運動への積極的な参加とその建設。「社会的挿入」と説明される過程。 *** 簡潔な歴史的見解 ラテンアメリカのアナキズムが過去数十年のうちに日の目を浴びるようになったばかりとはいえ、エスペシフィズモに含まれる考えは国際的なアナキスト運動の歴史的筋道に触れるものである。最もよく知られるのが「リバータリアン共産主義者の組織綱領」の発表を期に始まった綱領主義の潮流である。本文書は1926年に元農民軍のリーダーであるネストル=マフノやイダ=メット、その他の「ディエーロ・トゥルーダ」グループの活動家(同名の新聞を活動基盤とした)によって執筆された。ロシア革命から亡命し、パリを拠点としたディエーロ・トゥルーダは組織が欠如していたためにボルシェビキが労働者を一党独裁の道具に変えてしまうことを防げなかったとしてアナキスト運動を批判した。その代わりとして掲げたのが無政府共産主義を基盤とした「アナキスト総同名」であり、理論と戦略の結合を目指し、階級闘争と労働組合に焦点を当てるものだとした。 ほかにも、1920年のイタリアのアナキスト運動の歴史的文書で言及される「「二重の組織化」が同じ傾向の出来事と言える。イタリアのアナキストはこの用語をもってアナキストの政治組織のメンバーとして、また労働運動の活動家としての両者のアナキストとしての関与を説明した。スペインでは、ドゥルッティの友グループが1936年のスペイン革命を徐々に逆転させることに反対するために出現した。「新しい革命に向けて」では、綱領主義の考えの一部が参考にされ、CNTとFAIの改良主義や共和国政府との協力を反ファシストや革命的勢力を敗北に追い込んだとして批判した。1910年の中国のアナキズム運動では、「無政府共産主義同志協会」などが似た考えを提唱した。いま挙げた潮流にはその国や運動から発展したそれぞれ特有の特徴があるとはいえ、地域、大陸そして時代を超えた共通の糸に通じる。 *** エスペシフィズモを理解する エスペシフィズモには、その政治における3つの主要な目的がある。最初の2つは思想と実践の結合を基盤としたアナキスト特有の組織の必要性から、様々なアナキズムの潮流をゆるやかに結ぶ統合主義に反対するもののである。統合主義においては、思想や提案の合意が不可能な場合が多く、そのためにいつまでも時間を割くことになる危惧を呈している。このような団体はすべからく、「アナキストである」ということ以外共通項がないような集まりに成り果ててしまうからである。 この批判は南アメリカのエスペシフィズモから出たものであるが、北アメリカのアナキストも統合主義がその多岐に渡る、矛盾する政治的傾向により一貫性を書いた組織になってしまうという経験を共有した。.団体内の合意が曖昧な「最小公倍数」にまとめられてしまい、団結した行動や政治的議論が同志の間で困難となることが多い。 共通した政治的合意に基づいた戦略なくしては、革命的組織は永遠に繰り返される不正や抑圧の表出に対抗するだけの存在に成り下がり、その結果を理解することも分析することも困難になってしまう。さらに、エスペシフィズモは自発性や個人主義に依る傾向を批判し、革命的運動を建設する真剣でシステム化された作業に結びつかないことを指摘している。ラテンアメリカの革命家はプログラムを欠き、活動家間の一切の規律や、自らを「定義する」ことを拒む組織はブルジョア自由主義直径の子孫であり、強い刺激に反応するだけで、世間が高揚した瞬間にのみ闘争に参加する傾向があり、特に闘争と闘争の間にある比較的急速的な時期に作業を継続できないと指摘する。 *** エスペシフィズモの実践 アナキスト組織の役割におけるエスペシフィズモの実践として強調されるのが、共通の政治性に基づき、戦略を共有し、発展させ上で組織化の作業に反映させることである。組織の計画と作業に対する集団的責任に支えられ、メンバー間および団体間の信頼はその行動に関して深く、高いレベルで議論することができる。この結果、組織内の集団的分析が可能となり、短期的および長期的目標を発展させ、継続的に振り返りその教訓を元に取り組みを変化させることができる。 この実践とイデオロギー的な原則により、革命的組織は短期的な目標を規定し、長期的な目標を実現するプログラムを作る必要がある。そのプログラムは社会とそれを占める勢力との相関関係を厳密に分析するところから作られなければならない。抑圧される者の闘争とその野望が基盤である必要があり、その要素から目標を設定する事で革命的組織が最終目標だけでなく目の前の課題に対しても成果を上げるために動くことができる。 最後に、エスペシフィズモの鍵となるのが、社会的挿入という考え方である。この考えは、被抑圧者が社会の中で最も革命的な集団であり、将来の革命的変化の種は既にこの階級ち社会集団の中に存在という確信からなるものだ。社会的挿入は被抑圧者と労働者階級の日常的な闘いに参加することである。伝統的な政治活動家だけでできたシングル・イシューのキャンペーンに関わることではない。それよりも、物質的な必要性に限らず、政府や資本主義の攻撃に対して社会的および歴史的に闘う必要性のある生活の条件をよくしようとする人々とともに戦うことである。この中には一般的な労働者の運動や、在留資格を求める移民のコミュニティの運動、警察の暴力に抵抗する住民組織や予算カットに対して闘う貧乏な学生、貧困者と失業者の住居からの排除や行政サービスの削減に対する闘いなどが含まれる。 日常的な闘いの中で、非抑圧者は意識的な勢力となる。階級それ自体、または数々の階級の総体(都市の産業プロレタリアートという階級を矮小化した見方を超えて、新しい社会の到来が物質的な利益をもらたすあらゆる被抑圧階級)が日常的な闘いの中で鍛えられ、試練を受け、再生することで目の前の必要性から階級としての利害を考えるようになる。つまり、現在の社会的階級、または客観的に社会関係から存在が確認できるグループから社会的勢力に変貌する。有機的な手法、また多くの場合それぞれの自己組織化による結束により、自らの力、声を理解する自意識のある参加者になり、その固有の的を見分けることになる。その的とは、現代社会秩序の権力構造をコントロールする支配階級エリートである。 FAGが引用する社会的挿入の例には、都市内集落やスラムにおける自治会(民衆抵抗委員会と呼ばれる)であり、土地なき農民運動(MST)の役職についていないメンバーや再利用資源収集を生業とする住民と連携をとるものがある。一時的な非正規的雇用、断続的な失業、継続的な失業の割合が高いブラジルでは、多くの労働者が賃金ではなく、非公式経済、例えば日雇い建設業や路上販売、再利用資源の収集などで生計を立てていることが多い。数年の取り組みを経て、FAGは都市の資源収集労働者、カタドールらと強い関係を築いた。FAGのメンバーはカタドールらが全国的な組織を作る手助けをし、その組織は仲間同士で運営するリサイクル事業を創設するための資金集めを目指して収集労働者を共通の利益の元組織化するための取り組みをしている。 エスペシフィズモの民衆運動の思想との関係の概念はリーダーシップに、または知識人によるよる大衆指導であってはいけないというものだ。アナキスト活動家は運動を「アナキストの」立場に持って行こうとするべきではなく、アナキズムの趣旨である自己組織化と共通の利益のために好戦的に戦うという自然な傾向を保持しつつ取り組むべきであるとする。 背景には社会運動がそれぞれの論理でもって革命を成すという結論に至るという前提があり、どこかの時点で「アナキスト」と自称することがあるとは限らないが、全体的に見れば(少なくとも大多数が)自らの力に気づき、日常的に使うようになり、ある意味アナキズムの考えを意識的に実践するという見解がある。社会運動におけるアナキスト活動家の役割として、エスペシフィズモによれば、いくつもの政治的潮流が社会運動の中に存在することを示し、前衛主義や選挙政治の日和見主義的な要素と積極的に闘うことにある。 *** 北アメリカおよび西洋の文脈におけるエスペシフィズモ 北米および西洋の組織化した革命的アナキズムの現在の潮流としては、綱領主義が頻繁に挙げられ、近年世界中で芽吹く階級闘争アナキスト組織に偉大な与えていると言われることが多い。綱領主義は過去数世紀に渡る世界中の革命運動における組織化の失敗に対する答えを出していると考え、自らを「綱領主義の伝統」の中に位置付ける者が多い。このことから、エスペシフィズモの潮流と綱領主義は比較対照されるべきである。綱領主義の草案を書いた者の多くはとシア革命の元パルチザンであった。彼らは西ヨーロッパ軍、後にロシア帝国とか独立した歴史のあるウクライナにおけるボルシェヴィキに対する農民ゲリラ戦を率いる手助けをした。綱領主義の著者らは当時の中心的な闘争の中の歴史的文脈を踏まえて、豊かな経験から草案を書き上げた。しかし当文書は階級闘争アナキストを結束する提案において先走ったところがある。さらに当時の革命家が直面していた数多の問題に関して沈黙してしまった。女性の抑圧や植民地主義といったことだ。 多くの無政府共産主義傾向の組織が綱領主義の影響を表明しているものの、振り返ればロシア革命の後にアナキズムが直面した問題から出た辛辣な批判であったと言える。歴史的に見れば、綱領主義の提案は個人主義アナキストの潮流から拒絶され、言葉遣いの問題で理解が難しいと指摘され(Skirda, 186)、または支持したかもしれない人や組織まで情報が届かなかったと総括することができる。1927年には、ディエロ・トゥルーダのグループが小さな国際会議をフランスで開催したものの、すぐに権力に解散させられてしまった。 比較すると、エスペシフィズモの実践は今に生きる、発展した取り組みでずっと意義のある現代的な理論である。ラテンアメリカのアナキストの50年の組織化の実績から生まれ、何かの文章や呼びかけから派生したものではなく、国際的な資本主義への闘いを率いると同時に手本を示して来た世界の「南」の運動から有機的に発生したものである。エスペシフィズモの組織論は、綱領主義の「理論と実践の結合」を超えて、戦略的プログラムを作り革命家を導くことを推奨する。共通の分析、理論の共有および社会運動に強く根ざした活き活きとした革命組織の実例を示しているのだ。 エスペシフィズモの伝統には多くのひらめきが隠されている。世界的にはもちろん、北米の階級闘争的アナキストやアメリカ合衆国ないの多民族の革命家においてもだ。綱領主義は労働組合を中心に末田アナキストの役割を強調するが、エスペシフィズモは現代の革命運動を建設するにあたって意義深い実例を提供する。この点を考慮してこの文章が運動の伝統や影響について、もっと具体的に考えるきっかけになることを願っている。 *** 文献リスト · En La Calle (Unsigned article). “La Necesidad de Un Proyecto Propio, Acerca de la importancia del programa en la organisacion polilitica libertaria” or “The Necessity of Our Own Project: On the importance of a program in the libertarian political organization” En La Calle, published by the Argentinian OSL (Organisación Socialista Libertaria) Jun 2001. 22 Dec 2005. Translation by Pedro Ribeiro. Original Portuguese or English · Featherstone, Liza, Doug Henwood and Christian Parenti. “Left-Wing Anti-intellectualism and its discontents”. Lip Magazine, 11 Nov 2004. 22 Dec 2005. · Guillamon, Agustin. The Friends of Durruti Group: 1937-1939. San Francisco: AK Press, 1996. · Krebs, Edward S. Shifu, the Soul of Chinese Anarchism. Landham, MD: Rowman & Littlefield,1998. · Northeastern Anarchist. The Global Influence of Platformism Today by The Federation of Northeastern Anarchist Communists (Johannesburg, South Africa: Zabalaza Books, 2003), 24. Interview with Italian Federazione dei Comunisti Anarchici. · Skirda, Alexandre. Facing the Enemy: A History of Anarchist Organization from Proudhon to May 1968. Oakland, CA: AK Press 2002.