Antti Rautiainen

アナキストの反戦行動とロシアで増大するナショナリズム

2022

ポルトガルの新聞『マパ:ジャーナル゠ジ゠インフォルマソォン゠クリチカ』35号に掲載されたインタビュー。インタビュアーはペドロ゠モライス。


ウクライナでの戦争開始後、ロシアの様々な都市で抗議行動が行われ、多くの人々が拘束されています。戦争が始まって5カ月が経ちました。プーチンのロシアで行われている抵抗行動・反権威主義者とアナキストによる行動について教えてもらえますか?こうした抵抗行動はどのようにして現れ、どのような活動をしているのでしょうか?そして、ロシアの反権威主義反対行動を知るにはどうすればいいでしょうか?

アナキストは様々な反戦抗議行動に参加しています。戦争初日、アナキストはモスクワで行われた二つの無許可デモの最前線にいました。アレクセイ゠ナワリヌイが投獄され、彼のヒエラルキー型組織が弾圧されてから、反対行動はもっと分権型になっています。最重要ネットワークを運営しているのは、フェミニスト(例えば、「フェミニスト反戦抵抗行動」)や人権活動家(例えば「ヴェスナ(春)青年民主運動」)です。フェミニストは反権威主義的組織方法を好み、明確な指導者がいない場合が多いです。中には、アナキズムに触発されている人達もいますね。

アナキストの一部は、集中的に反戦プロパガンダとニュースの拡大に専念していて、それほど危険の多くない様々な行動に参加したり、弾圧に対抗する法的支援を提供するプロジェクトに参加したりしています。秘密裏の直接行動を組織している人達もいます。「自律行動」は前者で、「無政府共産主義戦闘組織」は後者です。こうした活動はそれぞれのウェブサイトでフォローできます。ただ、ロシアのアナキスト、そして反対派全般にとって、テレグラム゠チャンネルは最も重要なニュースソースです。国家はテレグラムへのアクセスをブロックできていないので。

ロシアによるウクライナへの帝国主義侵略はロシアで高まるナショナリズム感情の兆候だと理解しています。ロシアのナショナリズムの特徴をどのように考えていますか?ロシアのナショナリズムはロシア連邦の文化的多様性に対してどのように押し付けられているのでしょうか?また、こうした動きの中でロシアの極右が果たす役割はどのようなものなのでしょうか?

ロシアのウルトラナショナリズムには長い歴史があります。突き詰めていくと、その根源は19世紀中頃のスラブ主義運動にあります。この運動は欧州に広まっていたロマン主義的ナショナリズムの一部でした。元々、スラブ主義は正教会を中心とする改革運動だったのですが、世紀の終わりにロシアのエリートがこの考えを国家イデオロギーに取り込むようになって、現代のウルトラナショナリズムに近いものになりました。つまり、宗教とは無関係に、マイノリティの言語と文化を弾圧するのです。

ロシア革命後、アナキストや社会主義者とは違い、白人移民コミュニティは、こうした考えをファシズム・国家社会主義と結び付けて、ロシア連帯主義者全国同盟(NTS)のような組織と共にペレストロイカが始まるまで組織的連続性を何とか維持しました。ソ連時代でも、ナショナリストは1950年代に再出現し始めました。ペレストロイカの時代には、すぐさま全国的出版物・組織・ネットワークという発展的エコシステムへと進化したのです。

しかし、ロシアで反体制派が権力を持つことはなく、ナショナリスト反体制派も例外ではありませんでした。1990年代にはエリートはロシア例外主義のようなスラブ主義を再び弄び始めていたものの、民族派ナショナリストはロシア国家に直接敵対していました。ロシア国家は忌々しい赤色チェーカーに支配されている多国籍の寄せ集めだと見なしたのです。ナショナリストの大衆運動は選挙で敗北して1990年代に破綻し、ナショナリストはテロに訴えるようになりました。ナショナリズム暴力が行われた最悪の年は2008年で、100人以上がナショナリストの攻撃で殺害されました。

すぐに当局はナショナリストを厳しく弾圧し始めましたが、急進的反対派である民族派ナショナリストに最終的に打撃を与えたのは2014年の戦争でした。ナショナリストは分裂しました。均質な民族国家を優先して戦う人の多くがウクライナを支持し、新しい帝国(多国籍のものだったとしても)の構築を優先する人々はロシアを支持しました(ハードコアのナチスもロシア側を選びました)。ナショナリスト反対派はこの分断から回復していません。

一方、プーチンとロシアのエリートは、さらにナショナリズムの方向に動いています。30年間、プーチンはロシアのアイデンティティは言語や民族性にはないと主張しようとしていました。しかし、今、彼は、まさしくこうした問題巡って、ウクライナに戦争を仕掛けている。これは当然、ロシアという観念全体を単一言語民族国家へと移行させている。民族的マイノリティの地域は既にこのことに反発していますし、この反発はますます大きくなるでしょう。

戦争の強要を前にして、ロシアでの戦争反対はどのようなものになっているのでしょうか?ロシア社会は、ロシア人犠牲者という重荷と、兄弟関係とされるウクライナ人の喪失を既に感じているのでしょうか?

私は10年以上ロシアから離れています。何が起こっているのか・行動や声明がどのようなものかなどは知っていますが、社会の一般的「感じ」は分かりません。ただ、現在、矛盾する兆候があることは知っています。

ある友人が話していたのですが、戦争が始まって4カ月海外にいた後でサンクトペテルブルクに到着すると、全くの無気力状態だったそうです。抗議行動がないだけでなく、ソ連時代にはありふれた決まり文句だったのですが、台所でこの問題を議論しさえしていない。一方で、失踪兵士の母親による抗議行動のような新しい抗議行動の傾向もある。

明らかに、この抗議運動は一種の小康状態にあります。最初の3カ月間、ロシアの70都市で16,000人以上が逮捕されても、何のインパクトも与えなかったように見えるため、人々は疲弊し、幻滅しているからです。一方、何百、何千というロシア兵が戦闘を拒否している(実際、公式には戦争などないわけですから、完全に合法です)ため、こうした兵士を殴って服従させる特別キャンプを設置して、前線に送り出しているというニュースもあります。どう考えても、新しい反戦抗議行動の波が現れるでしょう。これは「道徳的」な行為としてではなく、銃後情況の物質的悪化、前線での死亡に対する反応として現れると思います。既にロシアでは軍や物流を標的とした反戦放火攻撃が一定のペースで行われています。

現在、左翼のスペクトルの中で、アナキストの中でさえも、ロシアによるウクライナ侵攻に対して様々な反応が見られています。非難する者もいれば、称賛する者もいる。世界的な規模で、ロシア社会やウクライナ社会でさえも、このような対立があることをどのように説明すれば良いのでしょうか?

幸い、私はロシアによる攻撃を称賛しているアナキストを知りません。しかし、「どちらにも反対」という立場を主張したがっているアナキストはいます。全く抽象的で何の具体的解決策もないのに。ウクライナとロシア双方の軍隊を同時に攻撃するというある種空想的なマフノ主義的特攻作戦を提案する人などいないのですから。このような愚かさの代わりに、ウクライナのアナキストは、ロシアの進撃に反撃する自軍の活動を支援しています。そして、ロシアのアナキストの大部分は、「運動史を研究する」といったことだけでなく、今もある種の闘争を行おうとしており、この点で、ウクライナを支持しています。ただ、この支持をいつも公に述べているわけではありません。名の知られたアナキストに重大な結果をもたらすかもしれないからです。

左翼の間違いについて全般的議論をしようとすれば、数冊の本が必要になるでしょう。私は、一つの要因として、50年代~70年代の反植民地主義運動の結果に幻滅したことが挙げられると思っています。このために、民族自決は間違いだとか、少なくとも、「平和」のためなら容易く犠牲にできるのだという極論に至る人もいます。

核戦争を恐れている人達もいます。確かにそれは脅威ですが、こうした人達はそのリスクを過大評価しがちです。多くの人は、自国の歴史文脈からしか世界を分析できない・分析しようとしないものです。私の知るところでは、ラテンアメリカ・イタリア・ギリシャ・ユーゴスラヴィアなどの観点からすれば、米国とNATOは善意ある勢力などではありません。歴史は繰り返されますが、全く同じ物語を繰り返すわけではないのです。

正直言って、百年以上の反植民地闘争の後でも、左翼は今も、何が植民地主義で何がそうではないのかについて充分理解していません。アナキズム運動の歴史にも、このあたりに盲点があります。例えば、スペインのアナキストがリフで潰された抵抗運動に関心を持ったのは、フランコに対抗するさらに多くの同盟が是が非でも必要になった時でした。でも、時すでに遅しだったのです。私はこうした問題を以前「何故ウクライナを支援すべきか」と「帝国主義に関する誤解とアナキストの集団的トラウマ」という記事で論じましたが、もっともっと書いた方が良いかもしれません。

戦争から5カ月経ち、この後どのようになっていくのか未だに分からないままです。この地域の将来のシナリオはどのようなものになるかお考えをお聞かせください。また、ロシア社会に劇的な変化が起こるというシナリオはあり得ると思いますか?

過去170年でロシア社会の主要な変化は敗戦によって引き起こされています。農奴制の廃絶はクリミア戦争敗北の帰結でした。絶対主義の廃絶は日露戦争敗北の帰結でした。君主制の廃絶は第一次世界大戦の東部戦線でロシアが敗北した帰結でした。そして、ソ連の廃絶はアフガニスタン戦争敗北の帰結だったのです。現在、ロシアがウクライナの戦争に勝っているとは思えません。敗北の帰結がどのようなものになり得るか、歴史的実例が数多くあります。実際、2月にこの戦争をある種肯定的に捉えていたのは、私の知る限り、モスクワのアナキストだけでした。彼等は、戦争を好機と捉え、たぶん、プーチンとその一味を排除して自然死させる最後のチャンスだと見なしていたのでしょう。

逆に、圧倒的で・狡猾で・不当なNATO連合のせいで負けたのだとプーチンが言い張れば、多分民衆は、自国の指導者達に対する怒りではなく、西側に対する憤りしか感じないでしょう。だから、ロシアでは来年何が起こるか分からないだけでなく、明日何が起こるかすら分からないのです。


https://note.com/bakuto_morikawa/n/n40c32e5b0c20(2023年4月21日検索)
原文:https://avtonom.org/en/author_columns/anarchist-anti-war-action-and-growing-nationalism-russia
原文掲載日:2022年11月12日
著者:Antti Rautiainen
インタビューの音声:Sound CloudSpotify