タイトル: アルゼンチンの選挙:ミレイは他の新自由主義者と違うのか?
発行日: 2023年12月
ソース: https://note.com/bakuto_morikawa/n/n2cc38acf10b3(2023年12月21日)

アルゼンチンの極右、ハビエル゠ミレイが大統領に当選したことを受け、私達はブエノスアイレスのアナキスト゠ブックフェア主催者に情況を尋ねた。同志の一人からの返答をここに掲載する。


こんにちは!関心を持っていただき、また、歴史的なフリーダム紙との会話に参加するようお誘いいただき、ありがとうございます。私はブエノスアイレスのアナキスト印刷所「エクスパンディエンド゠ラ゠レブエルタ」のメンバーです。この印刷所は2019年に設立され、主に、地域のアナキズム史に関する新しい資料を調査・編纂しています。「エクスパンティエンド」はこの都市でアナキスト゠ブックフェアを主催する出版社の一つで、「扇動図書館」に参加しています。なので、この返事は同志の総意ではなく、一部のグループや個人と対話する中で組み立てられた見解だとご承知おきください。

現地の人達にとって、この新しい大統領はどのような意味を持つと思いますか?前大統領について少し話していただき、違いを教えてもらえますか?人々は結集していますか?現地の組織はどうなっていますか?行動計画はありますか?影響を受けたグループ間の繋がりは?結果は予想されていたのですか?

一つの反応を予測するのは難しいですね。ハビエル゠ミレイ大統領は12月10日に就任しますが、既に様々なデモが計画され始めています。特に、国営メディアなどの公的部門に関連した省庁のように、強く問題視されているセクターは、将来的な予算削減と解雇の発表を受けて、集会や討論会を既に計画しています。あり得る「行動計画」を考えるのも難しいです。ミレイの勝利は孤立した出来事ではなく、最近の多くの社会闘争が口先だけで制度化されてしまった結果だと見なせるからです。明らかな例が、CGT(労働総同盟)に代表される全国的労働組合です。労働組合主義の公式センターは露骨に官僚主義的で抑圧的でペロニスタ政府の擁護者です。インフレ率が140%だというのに、CGTは過去4年間ストライキやゼネストを一切起こさず、賃上げを求めて闘う労働組合主義少数派を抑圧し、一方でペロニスタの大統領候補セルヒオ゠マサ経済相を支持するデモを行いました。

一般に、結集行動の雰囲気はあるものの、これはミレイの勝利が最初に与えた衝撃の結果でもあります。今後数週間・数カ月間で、多くのセクターが政府と協定を結ぶでしょう。私達の希望は、当然ですが、最も急進的な闘争の場にあります。単なる「抵抗」を促すのではなく、資本主義システムと国家に対する根本批判の提起を推進できる場です。

この結果について言えば、当初は予想されていませんでした。多くの人はリベラル右派が勝つと思っていました。ただ、最初の投票(アルゼンチンでは、大統領を決める際に、得票率に応じて2~3回の決選投票が行われます)では、マウリシオ゠マクリの党内にいるもっと「中道の」セクターが勝っていました。ミレイのサプライズは、多くの人に冷水を浴びせ、前政権を支持し、正しいと見なしていた人々に現実を突きつけました。

過去22年以上にわたり、人々は弾力的な相互扶助をどの程度構築できたのでしょうか?何が上手くいき、何が上手くいかなかったのでしょうか?また、旧左翼、ペロニスタの転落は何を意味するのでしょう--チャンスでしょうか、それとも単なる空白でしょうか?

二つの質問は関連し合っていると思います。ハッキリさせておきたいのですが、あちこちで目にするように、ペロニスタは左翼運動でもなければ、党でもありません。この点が重要で、この国の背景をもっと不可解で、もっと複雑にしています。だからと言って、「左翼」(私達とは正反対の立場です)を擁護しているのではありません。アルゼンチンの政治的背景を理解してもらうために述べています。アルゼンチンの制度的左翼の代表は「左翼戦線」です。毎年選挙に出て、得票率は非常に低い(3%)のですが、何人か代議士がいて、主要候補者は高い知名度と宣伝力を持っています。

ペロニスタは様々な政党をまとめる構造で、現在その代表は「ウニオン゠ポル゠ラ゠パトリア(祖国のための同盟)」です。そこには大衆ナショナリズムに関連する様々なグループと同盟が集まっています(明らかに、「ペロン将軍」の思想とは距離を置いています)。ある時点で、ペロニスタにはもっと「進歩的な」イメージがあったかもしれませんが、これは国情に適応しようとする選挙用政治戦術の一環と見なすべきでしょう(イデオロギー的立場として、ペロニスタは「左翼」だと自認していないのですから)。例えば、カルロス゠メネム政権(1990年~2000年)は、露骨なペロニスタで、新自由主義者で、全州の知事(ネストル゠キルチネルとクリスティーナ゠キルチネルを含めて)から支持されていました。それでも、2001年の反乱が起き、メネムに悪いイメージがついた後、ペロニスタは新自由主義に「批判的な」キャンペーンを始め、ラテンアメリカ主義との結び付きを強め、より進歩的な政府(ルーラ゠デ゠シルバ、チャベス、ムヒカ)と同盟を結びました。同時に、「国民主権」を謳いながら、モサント・バリック゠ゴールド・シェヴロンなどの企業を国に誘致し、資源抽出主義と環境破壊に邁進するプロジェクトを推進したのです。

2003年~2015年、ペロニスタ-キルチネリスタ政府に対する社会闘争は困難でした。これは、2001年の結集行動を推進した運動の多く(ピケテロスと町内集会のような)が制度化され、その反乱的要素から分離されたという事実に関係しています。最も戦闘的なセクターは、様々な社会運動から孤立させるべく、激しく弾圧されました。「左翼」のイメージ--キルチネリスタはどうやれば作れるか知っていたわけですが--の基になっていたのは、まさしく、議会外左翼・アウトノミア・アナキズム運動の弾圧でした。

私はペロニスタの「転落」自体をチャンスとも空白とも思っていません。ペロニスタは、単に、選挙に順応して、政治的に利益となる限り何らかの結集行動の発起人になろうとするだけです。同時に、あからさまな極右政府を前にすると、敵をイメージしやすくなるのも事実です。というのも、長年、私達は政府のナショナリスト゠プロパガンダに直面してきました。政府は「私達皆が国家だ」といったスローガンを使い、国家と対峙する私達を「右翼の思う壺」と非難しています。この意味で、過去に反政府結集行動は全て「反動」だと非難されていました。今の課題は、どうすればミレイを敵視する多くのセクターの怒りと行動ニーズが、例えば2003年や2015年のように、政治政党に再び取り込まれないようにできるか、です。

ハビエル゠ミレイは、新自由主義者で前任大統領のマウリシオ゠マクリの焼き直しのように見えているかもしれません。マクリは米国のハゲタカ資本家に門戸を再び開き、新たなショック療法政策を導入しました。その結果が36%の貧困率と40%に上る高インフレです。2018年から2020年まで、IMFは史上最大の融資をマクリに供与しました。1千億ドル(2018年に560億ドル、2020年に440億ドル)です。その結果、2012年から2021年まで、アルゼンチンの公的債務は最大になりました。GDPの40.5%です。フェルナンデスが2019年に大統領職に就いた時に国の債務は3200億ドル以上、2023年11月には4200億ドルに達しています。では、フェルナンデスがマクリからIMFの負担を引き継いだために、選挙公約を果たせなかったというのは正しいのでしょうか?中道左派ペロニスタの前任者達は、アルゼンチンの過去の債務を「忌まわしい」と宣言し、何とか債務問題から逃れていました。これは、南アフリカでマンデラとANCが政権を握った時に行えなかったと批判されたことです。中道左派の後任フェルナンデスはアルゼンチンの社会危機に取り組むと誓約しましたものの、充分な成果を上げられず、ミレイのトランプ流日和見主義が牽引力を手にする土壌を創り出したのでしょう。民衆が彼を「無政府資本主義者」と呼ぶのをどうすれば止められるでしょうか?

IMFの債務問題は、1950年代以降長年アルゼンチン経済に影響しています。要約してみると、1976年~1983年の独裁政権に明確な路線が見えてきます。独裁政権は多くの債務を負い、大規模な民営化計画を始める。この路線が、1990年代の新自由主義の十年で継続し、さらに深化する。2001年の反乱、そして様々な全国的・地域的背景に直面して、地域経済同盟の道筋が始まり、政府は債務の大部分を2006年から2009年に支払うと合意した。マクリ政権(2015年~2019年)は、アルゼンチンは大きな赤字状態にあり、2006年から2015年に生まれた経済バブルは維持できないといった別な弁明--多かれ少なかれ本当なのですが--をして債務を再開する。しかし、いつものように、IMFの新たな債務の目的は、この国の財政回復ではなく、略奪と搾取の深化だった。汚職に関わる公判が多いのは、資金の大部分が外国の口座に消えたからです。

ペロニスタ傾向を持つアルベルト゠フェルナンデス政権(2019年~2023年)は、任期を通じてこの債務を正当化の根拠として利用しました。あらゆる経済的責任が、マクリが負った債務から切り離されたものの、IMFと合意して債務の支払いを決めたのです。これを「詐欺」だと見なす多くの人は、様々なデモを行い、IMFとの繋がりを断ち切って支払いをしないよう要求しましたが、政府はこうした抗議行動を弾圧し、合意の当日に議会を襲撃したとして数名の抗議者を投獄しました。

この意味で、私達にとって、IMFの債務は政権政党の論理であり続けています。一方が債務を引き受け、他方が支払い、前政府を批判することで自分達の権限を正当化する。中間にいるのが私達、被搾取階級です。結局は私達が支払い、緊縮に悩まされ、生活の維持が徐々にできなくなりつつあるのです。

ミレイとマクリの相違点や類似点について言えば、選挙後半に際だった変化がありました。ミレイのスローガンの多くはポピュリストのフィクションだと示されたのです。当初、彼の主なモットーは、「政治的カーストを終わらせる」「旧態依然の老人に、もう一つのアルゼンチンは不可能だ」でした。自分達自身を政治的アウトサイダーだと見せようとしたのです。メディアはこの立場を熱烈に支持しました。マサとマクリとその政党は、マフィア・操り人形・「社会主義者」とまで言われ、また、ドル化と急激な緊縮を計画しているとも言われていました。しかし、最後の一カ月で彼は、選挙に勝つためにマクリとその候補者パトリシア゠ブルリッチ(70年代に「社会主義ペロニスタ」でした)と同盟を組み、彼が数週間前に言っていた非難を否定しました。現在、多くの大臣職をマクリの党(「変革のために共に」)に与えています。ブルリッチは再び安全保障相となるでしょう。2016年のIMF債務を請け負った張本人ルイス゠カプートは再び経済相になるでしょう。

こうした例は、ミレイのポピュリスト的レトリックが、あらゆる政党同様、権力奪取の戯画だったと証明しています。彼が計画している緊縮の一部、そしてドル化すらもが、完了までに何年も、何十年すらも掛かる長期計画だと論じられ始めています。政権奪取前に経済計画を修正し始めたため、「自由前進党」(ミレイ)のタカ派もこれを非常に疑問視しています。

選挙キャンペーン中、ミレイは敵対セクターからファシストとして公然と示されていました。しかし、このプロパガンダはアルゼンチンの政治的現実と区別しなければなりません。「ラ゠リベルター゠アンバサ(自由前進党)」(LLA)内にも極右セクターはありますし、それは否定できません。副党首は過去の軍事独裁と直接関係し、70年代の革命運動に対する弾圧を公然と正当化しています。ただ同時に、マクリとマサ(このペロニスタ候補者は「祖国のための同盟」の候補者というだけでなく、断固たる抑圧的・保守的な性格を持つ自身の政党「フレンテ゠レノバドール(リニューアル戦線)」も持っている)の両セクター出身のリベラル派もいます。議論となっているのは、将来の緊縮と資本の逃避が社会秩序の維持とどの程度両立できるか、です。ミレイが政治経済秩序とその事業にとって危険になれば、今日彼を支持している政治家達も数年以内に彼の辞任を求めるようになるでしょう。

抵抗運動の要因が現れるのはここです。大雑把に言って、重要で自治的なマプチェ族の抵抗運動と様々な環境保護会議は、あらゆる政府に対する、そして闘争を商業化しようとするNGOに対する敵対的立場を維持しています。また、アナキストや広義の反権威主義運動もあり、少数ではあるものの、闘争を拡大し、反乱を促す様々なツールを持っています。確かに私達は小規模なセクターについて話していますが、より多くの人達がリベラルな形で国家の進歩に動員されている情況の中で、彼等は影響力を持てます。さらに、フェミニズム運動は、中絶合法化(2020年12月)以後、制度化サイクルに入り、多くの人を疎外していましたが、再び、社会問題化の一要因として結集しています。

言っておかねばなりませんが、弾圧も激しくなっており、今後確実に増加するでしょう。アルゼンチンは住民10万人当たりの警官数が最も多い国の一つ(803人)ですが、例えば、米国やカナダは200人に達していません。社会統制を厳しくし、街頭の警官を増やすプロセスは2002年から現在まで全ての政権が行っています。

「無政府資本主義」要素に関しては、ミレイが政治キャンペーンで象徴的な反抗的フレーズを使っていたことについていくつか議論があります。例えば、理論的・歴史的言説に踏み込もうとして、「リバタリアン」という言葉を過激派に由来すると述べている人もいます。私達は、これは考慮すべき要素ではあるものの、政権与党が私達に押し付ける誤った二分法を越える議論をしなければならないと考えています。ミレイの支持者も反対者も「反国家」言説を彼に関連付けていますが、これについて最も危険な点は、国家管理に関する誤ったジレンマに陥り、一人の大統領が国家に反対していると断言したり、政府に対する「抵抗」は権利と国家制度の保護を目的にしなければならないと断言したりするといった不条理に達することです。この点が、今後数年間の議論と社会激動を経験し、対応する上での核心です。新自由主義の国家運営とポピュリスト゠ナショナリズムは、対立する二つの立場ではなく、むしろ、同じコインの表と裏であり、資本がその統治を交代させていると理解しなければなりません。

ショック療法や、大企業と政府からの圧力から民衆が身を守るためにはどのようなツールがあるのでしょうか?また、この新しい男がリズ゠トラスのようなことをして、市場に強奪された場合、社会運動は対応できるのでしょうか?

思うに、ツールは大分前からさほど変わっていません(これも問題なのでしょう):民衆の結集行動・ストライキ・連帯行動・対決です。私達の現在の関心事は、結集行動が非常に制度化されている情況下でどのように行動するか、です。社会的指導者の多くは組織や政党の代表者です。彼等は、闘争の可能性を現行社会秩序の維持方法としてしか見なしていません。現時点で、何らかの自然発生的瞬間に、私達はデモで団結できるかもしれません。しかし、彼等にとって闘争が政治的に機能しない場合、警察と対決したり、フードをかぶったりしている人を彼等は真っ先に犯罪者扱いするのです。

2017年にこれが顕著に示されました。8月1日、アナキスト仲間サンティアゴ゠マルドナドが、クシャメンのマプチェ族コミュニティに隣接する国の南部ルートを封鎖している時に姿を消しました。ジョンダーマリィ(国家憲兵隊)が彼を誘拐し、彼の死体は2カ月後になってやっと発見されました。その数カ月間、多くのアナキスト・反乱分子・反権威主義者が街頭に繰り出し、多くの行動・プロパガンダ・情報拡散を行いました。また、多くの政党と組織もサンティアゴの殺害事件を利用して政治キャンペーンを行い(2017年には下院選挙があったのです)、軍事独裁政権時代の失踪事件と関連付けてマクリとブルリッチのイメージを「汚し」ました。この情況で、同志達による反乱の可能性(当初は可能でした)は強硬に弾圧されました。弾圧したのは、警察だけでなくペロニスタと公認左翼です。彼等は、サンティアゴがアナキストだったことを否定し、彼の仲間を「潜入者」だと非難するメディアキャンペーンを始めました。この論理は、アルゼンチンだけでなくチリやブラジルでも、アナキストを犯罪者扱いし、警察官だとか「扇動家」だとか非難するために使われています。今日、サンティアゴのイメージは国中に知れ渡っているものの、アナキストとしての彼の記憶はほぼ無視されています。

私達はこうした経験から学びました。闘争の中にいて、自分達で組織を作り、関係を生み出し、討論や議論の場をもっと多く開催しつつも、必要に応じて姿を変える政治的駆け引きにも注意・用心しなければなりません。そして、国家や国内ブルジョアジーの代表との「統一戦線」ゲームに陥らないようにしなければなりません。

私達の信念は揺るぎません。中途半端な真実やパンフレットのスローガンに閉じこもらず、改良主義やナショナリストの論理に陥らず、国家と資本を破壊する革命闘争を推進していきます。

インタビュアーはウリ゠ゴードン