タイトル: 実例でみるブルシット・ジョブ
著者名: David Graeber
トピック: 反労働, 労働
発行日: 2020
ソース: https://note.com/neverawakeman/n/n259e0834c231(2023年4月21日検索)
備考: 以下の記事より抄訳。
https://davidgraeber.org/articles/i-had-to-guard-an-empty-room/(NeverAwakeMan より)

自分の仕事にチャレンジなど存在しないという事実を受け容れることが自らの仕事における唯一のチャレンジであるとき。自分がまったく無力であるという事実を覆い隠すこと以外に自分の力を創造的に使えないとき。自分が組織に寄生し詐欺を働いているという、自身の選択とは真逆の事実に対応するとき。こうしたときにやってくる惨めさは、以下に述べるようなブルシット・ジョブに就く人々によって証言されている。

空っぽの部屋の警備

私は、国際的なセキュリティ会社に所属する警備員として、展示室の一つが使われていない博物館で働いています。
私の仕事は、その空っぽの部屋を警備して、客の誰も部屋のものに触っていないか、誰も火を着けたりしないかを確認することです。精神を鋭く保ち、注意散漫にならないように、本や携帯電話のように精神的な刺激になるようなものは何であれ禁止されています。
誰もその部屋にやってくることはないので、私は火災警報器が鳴るのを待ちながら、7時間半もの間じっと座って親指をぐるぐる回しているのです。もし本当に火災警報が鳴ったら、私は落ち着き払って立ち上がり、部屋を出るでしょう。それだけです。

コピーとペースト

私がやらなければならないことはひとつ。技術的なヘルプを求める従業員からのメールが来ていないか受信トレイを見張り、来たメールをコピーし、別の書式に変更してペーストすることです。
これは作業自動化の教科書に載ってそうな例であるどころか、かつてこの仕事は本当に自動化されていたんです。マネージャー間で何らかの不和があったせいで、自動化を取り消すという標準化が起こってしまったんですよ。

忙しいふりをする

私は臨時職員として雇われたのですが、何の仕事も割り振られませんでした。忙しくしていることがとても大事だと言われたのですが、ゲームもネットサーフィンもできません。
私の主な役割といえば、座席を確保してオフィスのお飾りに徹することのようでした。最初は、こんなのすごい楽だって思いました。しかしすぐに分かったのは、実際忙しくもないのに忙しく見せるのはオフィスで行う行動の中でも考えうる限り最も不快なものの一つだということです。実際、二日も経つ頃には、これは自分が今までやってきた中で最悪の仕事になるであろうことは明白になりました。
私はLynxをインストールしました。これはテキストしか表示されないWebブラウザで、DOSウインドウのような見た目をしています。画像もなく、等間隔のテキストが一面の黒い背景に表示されるだけ。私のぼんやりしたネットブラウジングは、いまや熟練の技術者の仕事に見えるようになりました。Webブラウザは端末のように見えていて、そこに勤勉に入力されたコマンドが私の無限の生産性を示しているというわけです。

しかるべき場所に座る

夏の間、私は大学の寮で働くことにしています。この仕事をやるのは3年目になりますが、それだけ経ってもなお、私が本当にやらなければならない仕事が一体何なのか、不明瞭なままです。おもに、フロントデスクの席を物理的に確保することが私の仕事に含まれているみたいですね。
個人的なプロジェクトを進めるのも自由です。それは何かというと、基本的にはキャビネットで見つけた輪ゴムを集めて輪ゴムボールを作ることです。
輪ゴムボール作りで忙しくしていないときは、オフィスのメールをチェックしたり(もちろん私は基本的に何の研修も受けていないし事務的な権限もないので、できるのは来たメールを上司に転送することだけです)、ドアの前に届いた荷物を荷物部屋に動かしたり、電話に出たり(もう一度言いますけれど、私は特に何も知らないので電話相手の望む応答ができることはほとんどありません)、あるいはデスクの棚から2005年からほったらかされているケチャップの袋を見つけたりといったことしかありません。
こんなことをして、私は時給14ドル(2022/10/3時点の日本円換算で2,030円)を貰っているのです。