タイトル: 近代国家を理解する:エリック゠ラールセンへのインタビュー
著者名: Eric Laursen
トピック: アナキズム, 国家
発行日: 2021
ソース: https://note.com/bakuto_morikawa/n/n8faedf35f5db(2023年4月21日検索)
備考: 原文掲載日:2021年12月15日
原文:https://www.anarchistagency.com/commentary/understanding-the-modern-state-an-interview-with-eric-laursen/(bakuto morikawaより)

政府と諸制度への不満・不信が記録的レベルになっているという報道記事を当たり前に目にするようになった。最近の記事の一つは、18歳から29歳の米国人を対象にした ハーバード゠ケネディ゠スクールの調査 である。回答者の半数以上が、失敗した民主主義の中で暮らしていると感じていた。世の中に不満を示す時には、政府・企業・軍・警察といった特定機関について述べるかもしれないが、こうした諸機関それぞれは、私達の生活全てを管理しようとする大きなシステム--国家--の一部に過ぎない。
エージェンシー(原文サイト)のエリック゠ラールセンが最近出版した本『オペレーティングシステム:アナキズムの近代国家理論』( AK Press)は、近代国家の発展を分かりやすく、興味深く概説している。国家とコンピュータOSとの本質的同一性--どちらも、私達の存在を監視し、統制する目的を持つ--を挑発的に描く。エージェンシーは最近、エリックが本に書いた核心のいくつかを示した 短編アニメ動画 を制作した。私達はエリックにインタビューし、近代国家がどのように機能しているのか、何故私達はそれを超克しなければならないのか話を聞いた。


エージェンシー:最近あなたは『オペレーティングシステム:アナキズムの近代国家理論』を出版しました。何故国家なのでしょう?今の段階でこのような途方もない主題に取り組んだのは、何かきっかけがあったのですか?

エリック゠ラールセン:主に、これまで誰もやっていなかったからですね。私は成人になってからずっとアナキストを自称しているのですが、最初の頃、いわゆる「古典的」アナキスト--クロポトキン・バクーニン・ゴールドマンといった--が国家とは何か広い意味で分析していなかったことに驚きました。私なりの考えもあったし、彼等の基本的主張--資本主義の打倒には、同時に、国家の打倒が不可欠だ--に同意していました。でも、これら二つにどのような関係があるのかもっと理解しなければなりません。アナキズムの文献や理論--この問題についてはマルクス主義の理論も--満足いくように説明していないと思います。だから、私はこの問題を長い間考え続けていました。私が新しく出した本は、実際、このことを長年悩み、2年ほど前からさらに深掘りするようになった結果です。

この問題を考えることにしたもう一つの理由は、これらのシステム--資本主義と国家--と人間の関係が危機的な地点に到達していると感じたからです。化石燃料の使用に莫大に依存した経済を構築する。これは過去200年以上にわたってこれらのシステムが決めたのです。発展途上国に新自由主義経済を押しつけ、地元の経済と社会秩序を蝕み、世界中で大規模な人口流出をもたらしたのは、これらのシステムの決定でした。先進国に新自由主義を適用したのもこうしたシステムの決定でした。その結果、経済的不平等は拡大し、コミュニティは空洞になり、莫大に膨張した金融セクターは経済をカジノへと本質的に転化させたのです。

こうした地球規模の実存的危機を創造した原動力をより良く理解することが急務です。そして、これは国家と資本主義の関係を理解することと同義なのです。

エージェンシー:何故、コンピュータOSが国家に例えられるのですか?

エリック:ウィンドウズやiOSのようなシステムは、国家そのものと同じように、絶対的権力を切望しているからです。全知全能の存在として、私達の生活に常に存在し続けようとしています。地球規模の単一文化を構築しようとしています。そして、一種のユートピアとして売り出されているのです。これは偶然ではありません。コンピュータOSは国家の産物であり、第二次世界大戦後の数十年の集中的な官民一体の取り組みによって開発されました。国家同様、500有余年前に始まった近代世界を決定づける発展の一翼を担っており、国家そのものが持つ野望の多くを具現化しています。

私が何を意味しているのか説明しましょう。人間の歴史には、エジプト王家・ローマ帝国・中華帝国など様々な種類の国家がありました。しかし、近代国家は15世紀の終わり頃に欧州で出現した非常に特殊なものです。何が違ったのかと言えば、新しい国家--当初はフランス・イングランド・スペイン--では、君主が一元的な体制を作る際に、権力獲得・拡大の道具として商業と金融を使ったことです。国内外で敵を倒し、権力を拡大する上で、もはや軍隊・貢ぎ物・税だけでなく、生産する商品・商品を売る市場規模・レバレッジも関わっていた。だから私は、国家は元々資本主義で、今もなお最大の資本家だと述べているのです。

しかし、この新たな武器を有効に使うには、支配者がその住民の生活をさらに大きく管理する必要があった。生活の全側面を管理する。つまり、近代国家は、どこに住み・子供を何人持ち・どんな宗教を信仰し・どんな職業に就き・何を考え・何を信じるかをもっと細かく管理するようになったのです。数世紀経つと、もっと多くの追跡・監視・規制・ソーシャルエンジニアリング・効率化を意味するようになり、さらに多くの伝統を国家のインフラに吸収したり、邪魔になればそうした伝統を破壊したりするようになった。そして、帝国主義と植民地化を意味するようになり、国家は世界の大部分をその経済・政治モデルに吸収しようとした。国家それ自体は植民地の輸出品です--世界史の中で最も成功したインチキ商品だと言えるかもしれません。

コンピュータOSも同じ野望を持っています。デジタル生活全ての枠組みを提供しています。私達はウィンドウズの「市民」、マックiOSの「市民」になっています。ますます多くの生に深く入り込む文化となっている--そして、マーク゠ザッカーバーグとその同族が「メタバース」を使って好き勝手やれば、生活全体がそうなってしまうのです。

こうしたシステム同様、国家は、私達が持続不可能な存在様式--化石燃料の抽出と消費に基づく--を認めて、それに完全に慣れ親しむようにしようとしています。何百万もの貧者と発展途上地域を搾取し、私達の存在そのものを危険に晒し、国家なしに存在するなど考えられなくしているのです。

エージェンシー:『オペレーティングシステム』であなたはあらゆる国家の権力中枢にある「コア゠アイデンティティ゠グループ」の問題を論じています。「コア゠アイデンティティ゠グループ」の実例と、それが国家の中でどのように権力を集中させているのか話してもらえますか?

エリック:そうですね、こうした「コア゠アイデンティティ゠グループ」は常に、ある種人為的なものでした。一例を挙げましょう。米国には「白人」として知られているものがあります。この集団は、実際には、階級的にも・民族的起源でも・富の点でも全く異なるもので構成されている。しかし、私達は、白人こそが特権を持つカースト、「本物の」米国人、国家が体現しているとされる「国民」としての米国人を自称する特権を最も与えられた人だと見なすよう教え込まれています。でも、白人性はでっち上げられた概念です。必要に応じて新しい集団を柔軟に含めるよう拡大解釈できるのです。

全ての国家には、近代国家の起源に遡るそれぞれの「コア゠アイデンティティ゠グループ」があります。その正体は、国家がその支持基盤として依拠している集団、国家と最も密接に一体感を持つよう仕向けられた集団、国家が指導部を更新する際の貯蔵庫です。「コア゠アイデンティティ゠グループ」という概念の問題は、それが必ず誰かを排除する点にあります。実際、多くの人を排除します。他の人達は底辺層となり、絶えず特権のドアをノックし続けますが、絶対に入れない。その結果、国家の代償として、人種差別主義・性差別主義・ジェンダー゠アイデンティティ差別が生じる。女性とノンバイナリー(訳註:男性・女性のどちらでもないと認識している人)は暫定的に「コア゠アイデンティティ゠グループ」に属しているだけです。もちろん、資本は、労務費を低く抑えるために底辺層を必要としています。だから、こうした序列はビジネスと金融の利益にも役立つのです。強調しておきますが、これらは、国家の手を借りて解決できるような問題ではありません。これらは、国家それ自体に固有のものであり、国家の内部論理の一部なのです。

エージェンシー:『オペレーティングシステム』では、コミュニティの最も基本的なニーズすらも国家はほとんど扱えないと論じています。コミュニティのニーズに関して国家が特に失敗していると思う分野はありますか?

エリック:既にその一つ--人種差別主義--について述べましたが、世界に残っている先住民族グループとその文化を標的として排除していることもそうですね。ただ、もっと数多くあります。もちろん、もう一つは貧困です。国家は貧困の削減に力を注いていません。理論的にはそうするための充分な資源があるし、自由主義者や保守主義者が黙認する「トリクルダウン」イデオロギーもあるのに。国家は常にできる限り速い経済成長の追及に力を注いでいる。これが現代世界の権力基盤だからです。そうするために資本に頼るから、必然的に景気の波に影響されます。景気の波は人間を放り出し、巨大過ぎて潰せない犯罪者を救済しなければならない。そして、このシステムが環境に与える損害も無視される。もちろん、これはもう一つの問題です。私達は国家に基づくシステムの成長と維持に対して膨大な代価を支払っています。気候変動が加速すると、この代価は破滅的になります。だから、私はもう一つ強調したい。国家は地球温暖化の問題を解決することも、それを変えることもできないし、そうするインセンティヴもない。そんなことをしたら、急速な経済成長の追求から目を逸らすことになってしまうからです。

エージェンシー:ほとんどの人が国家を当たり前のように思っていて、あたかも国家は当然のことで、国家以外の代案は全て恐ろしく残酷であるかのように感じています。国家のエージェントが無国家社会についてこれほどまでに恐怖を創り出せたことについて何かお考えがありますか?

エリック:そのとおりです!国家は、ハードパワーとソフトパワーを組み合わせ、「コア゠アイデンティティ゠グループ」の忠誠心を培って、社会に対する国家のヴィジョンを強制します。私達は、最近、言うまでもなく、トランプが米国白人の自分達が「本物の米国人」「一般大衆」の感覚に媚びていた様子や、英国のブレグジット運動によってアングロサクソンの背景を持つ英国の白人が「英国人」とは何かについて非常に排他的な感覚を身に付けるよう促していたのを目にしています。

しかし、問題があります。いわゆる先進国のほとんどで、政府への信頼は歴史的に低い水準にあります。だから、政府は「コア゠アイデンティティ゠グループ」が二つの機関、軍と警官隊と一体になるよう奨励しているのです。これらの機関は、脅威を与える「分子」から「コア゠アイデンティティ゠グループ」を保護する者・社会の最高価値を支持する者・一定集団のために世界を団結させる一種の接着剤だと見なされています。その忠誠心を買うために、国家は、こうした機関が常に追い詰められた気持ちでいるように煽っています。

もちろん、全てが失敗しても、ハードパワーがある。これは「コア゠アイデンティティ゠グループ」の外にいる人々がその力を最も感じやすい類のものです。最近、私達は、軍の殺害方法がさらに冷徹になり、警察が秩序維持のために軍のテクニックを使っているのを目にしています。米国では、文字通り収容場所がないほど刑務所の在監者数が増えています。ただ、ハードパワーにも「ソフトな」面があります。保護され、見守られていると「コア゠アイデンティティ゠グループ」を安心させる活動です。

ハードパワーもソフトパワーも、近代の始まりからこの混合体の一部となっていました。しかし、国家のあらゆることと同様、道具と技術はどちらも、時間と共にさらに洗練され、さらに蔓延するようになった。今日、国家のハードパワーとソフトパワーは、過去数世紀で一度も見られなかったやり方で至る所に存在しています。

エージェンシー:OSが国家のアナロジーだとすれば、アナキズム社会を確立するというあなたの考えをデジタルで例えれば何になるのでしょうか?

エリック:既にありますね。リナックスのようなオープンソース゠システム、少なくともその理想形がそうです。ただ、デジタルの問題は、他の国家機構や製品と全く同じです。デジタル世界は、国家の中心にある政府と民間セクターが一体となって考案され、設計されました。この協力関係の目標を達成するためにシステムが作られたのであって、何人かのテクノロジー王が主張したがっているように、私達を自由にしたり、地球規模コミュニティを創造したりするためではありません。だから、問題は、デジタル文化を私達の求めるものにする方法を知ることではなく、むしろ、テクノロジー王が私達を利用して経済的価値を生産している点にあるのです。国家が存在する限り、他の多くの領域と同じように、この領域でも私達の活動を妨げようとするでしょう。その代わり、国家による金儲け主義で押しつけがましく傲慢なデジタル未来像を受け入れるようにさせる。受け入れる必要はありませんが、オープンソースのデジタル文化を奪還するためには、オンライン社会革命に相当するものが必要です。

エージェンシー:あなたの新刊書から読者に何を得てほしいと思いますか?

エリック:読者に依りますね。アナキストであれば、私の本が刺激になって、国家について考え、自身の考えを発展させてほしいと思います。アナキストとして私達は、このことを分析し、理解するのに最も適しています。アナキズムは国家を前提としない唯一の政治思想なのですから。私達だけが、世界の諸問題を解決するために惰性的に国家を求めないし、複雑な社会を組織するために何らかの形で国家が必要だなどと考えないのです。

アナキストでなければ、『オペレーティングシステム』によって、国家が私達を組織するやり方を新しい形で見られるようになって、国家が押し付けているシステムに内在する問題の一部でも明確に伝われば良いと思います。また、人類と地球が直面している諸問題に対する解決策について非アナキストがもっと幅広く考える刺激になってほしいと思います。問題を集団的に解決する際に国家と資本を含めないのは、実現不可能なユートピア主義だと教えられています。実際には、国家と資本こそが私達を邪魔しているのです。

エージェンシー:国家に対する考え方・国家との関わりについて社会の何が変わらねばならないのでしょうか?

エリック:第一に、私達は政府と資本を二つの別々なものだと考えるようになってしまっています。一般に、互いに緊張関係の中で存在すると考えています。もちろん、緊張関係はありますが、私が示そうとしていたのは、政府と資本は単一システムの、私が大文字のSで示している国家(State)の二つの部分なのだということです。国家は、絶え間なく富を築こうとして地上のあらゆる資源--人間の生命を含む--を管理しようとしています。他のことはどうでもいいのです。

でも、同時に魅惑的でもある。国家は人間生活の全方位モデルを提供してくれる。国家がシステムをあるがままに受け入れやすくしてくれているのに、何故、わざわざ国家の外で考えるのでしょう?でも、無論、これこそが国家の外で考えるよう学ばねばならない理由なのです。国家は、私達が望む社会に対する単なる障害物ではありません。障害物どころか、今私達が現に手にしているものなのです。

私達はもう、何をすべきか分かっています。ある程度まで既に行っています。抵抗のノードを特定し、ノード間のネットワークを形成しています。このようにして、私達は様々な活動の共通性を認識し、組織できます。例えば、スタンディングロック居留地とブラジルの土地なし農民運動との・インドの農民叛乱とブラック゠ライヴズ゠マターとの・気候変動サミット参加国に対するグレタ゠トゥーンベリのゲリラ闘争と警察廃絶闘争との共通性です。実際、近代国家の歴史に共通しているものの一つは、先住民族や少数民族コミュニティに対する容赦ない戦争です。彼等の自衛闘争は、国家による単一文化ヴィジョンの成就を望まない全ての人の闘争なのです。だから、これは絶対的に重要です。ありとあらゆる繋がりや同盟を作るのですから。


エリック゠ラーセンはマサチューセッツ州に住んでいる。彼は、アナキズムのオーガナイザー・ライター・学者である。エリックは、長年にわたり、反戦運動・反帝国主義運動・世界規模の経済正義運動に参加しており、毎年行われるニューヨークシティ゠アナキスト゠ブックフェアの主催者である。彼の近著は『The Operating System: an Anarchist Theory of the Modern State』(AK Press)。