タイトル: 吾人は飽くまで戦争を非認す
トピック: 日露戦争, 反戦
発行日: 1904年
ソース: https://www.ne.jp/asahi/anarchy/anarchy/data/koutoku02.html(2024年3月15日検索)

凡ての時と所とに於ける凡ての罪悪を集むるとも決して一の野戦に依りて生ずる害悪に過ぐることなし(ヴォルテール)。

戦争は人間の財産及び身体に関してよりも人間の道徳に関して更に大なる害悪を為す(エラスムス)。

大砲と火器は残忍にして嫌悪すべき器械なり、予は信ず、是れ悪魔の直接の勧奨に依りて生ずるものなるを(ルーテル)。

時は来れり、真理の為めに、正義の為めに、天下万生の利福の為めに、戦争防止を絶叫すべきの時は来れり。

夫れ人類博愛の道を尽さしめんが為めに、人種の区別、政体の異動を問わず、世界を挙げて軍備を撤去し、戦争を禁絶するの急要なるは、平民新聞創刊の日、吾人既に宣言せり、爾後の紙上、未だ特に此一事に向って全力を傾注するの機を得ざりしと雖も、而も各欄、各項、事に接し物に触れて、毎に此旨義を説明論道するに力めたるは、具眼の読者の諒とせらるる所なる可きを信ず。

而して今や日露両国の事、狡兒事を好みて頻りに人心を煽揚し、豎子計を失して深く危地に陥り、揆離扞格日は一日より甚だしきを致す、市虎三たび出て、不狂人も亦狂人を逐うて走らざることを得ず、勢いの駆る所、横死流血の惨を見る、亦測る可らざらんとす、殆哉岌乎たり、之に加うるに我同胞中或者は戦勝の虚栄を夢想するが為めに、或者は乗じて奇利を博せんが為めに、或者は好戦の慾心を満足せしめんが為めに、焦燥熱狂、出師を呼び、開戦を叫び、宛然悪魔の咆哮に似たり、吾人是に於て吾人同志の責任益々深きを感ず、然り、吾人が大に戦争防止を絶叫すべきの時は来れり。

吾人は飽くまで戦争を非認す、之を道徳に見て恐る可きの罪悪也、之を政治に見て恐る可きの害毒也、之を経済に見て恐る可きの損失也、社会の正義は之が為めに破壊され、万民の利福は之が為めに蹂躙せらる、吾人は飽くまで戦争を非認し、之が防止を絶叫せざる可からず。

嗚呼朝野戦争の為めに狂せざるなく、多数国民の眼は之が為めに昧み、多数国民の耳は之が為めに聾するの時、独り戦争防止を絶叫するは、双手江河を支うるよりも難きは、吾人之を知る、而も吾人は真理正義の命ずる所に従って、信ずる所を言わざる可らず、絶叫せざる可らず、即ち今月今日の平民新聞第十号の全紙面を挙げて之に宛つ。

嗚呼我愛する同胞、今に於て其本に反れ、其狂熱より醒めよ、而して汝が刻々歩々に堕せんとする罪悪、害毒、損失より免がれよ、天の為せる禍いは猶お避く可し、自ら為せる禍いは避く可らず、戦争一度破裂する、其結果の勝と敗とに拘わらず、次で来る者は必ず無限の苦痛と悔恨ならん、真理の為めに、正義の為めに、天下万生の利福の為めに、半夜汝の良心に問え。

(平民新聞第十号)