タイトル: ウォルサム゠フォレストの栽培コミュニティ
著者名: Greg Frey
発行日: 2024年5月
ソース: https://note.com/bakuto_morikawa/n/n07ba14ae9ebd(2024年6月2日検索)

ウォルサム゠フォレスト゠ロンドン自治区で連帯経済が台頭し、食を中心に展開している。何百人もの人々、そして一握りの草の根協同組合・コレクティヴ・ネットワークが、資本主義的工業型農業の代案を構築する方法を見つけ出そうとしている。手遅れになる前に。

ロンドンの子供達の25%は学校が休みの間、飢餓に直面している。英国では総計320万の成人が、食料を買えなかったり手に入れられなかったりしたため、丸一日食事をしなかったと報告されている。過去50年で野生生物の70%が、過去20年で昆虫の64%が、絶滅した。作物に含まれる栄養素は100年前と比べて40%減っている。ロンドンの食料の99%は市外から来ており、世界の温室効果ガス排出量のおよそ1/3は農業由来で、農業物流だけで1/5を占めている。

工業型モデルがこれほどまで破綻しているのに、どこから手を付ければいいのだろうか?サパティスタが述べているように、イエスは多く、ノーは1つだけだ。20年前、若い生産者のグループがウォルサム゠フォレスト議会を説得し、市の外れにある12エーカーの土地を借りて、協同農場を始めた。今日、「オーガニックリー」は、毎週数百の野菜ボックスを段階的な連帯価格で販売し、数百人の新規生産者を訓練している。これが主要な「イエス」だが、他にもある。幾つかの食品協同組合は余剰食品を再分配し、農産物を大量購入してコストを削減している。少なくとも3カ所のコミュニティカフェは高品質の食品を人々が買えるよう変動価格で販売して、高級化し敵意に満ちた都市に必要不可欠な避難所になっている。そして、何十ものコミュニティガーデンは、再生可能な土地の手入れ方法を実践し、都市の小区画を奪還して、住民の主体性が損なわれないよう気を配っている。

フードフォレストは廃墟となった教会の庭でXRの活動家達が始めた。「コミュニティ゠アポセカリー」(安価なハーブ療法を提供するコレクティヴ)はヒーリング゠ハーブ゠ガーデンでハーブを栽培している。「タイム゠トゥ゠グロウ!(TTG)」は、放置された民間菜園で人々がコミュニティのために作物を育てることを支援するプロジェクト。資本主義的農業に対する地域化された代案を試す食欲に限りはない。気候変動が悪化し、絶望的に孤立し、資源が深刻に(どれほど人工的だとしても)枯渇している近年、お互いに食物を育て合うことは賢明な対処法に思える。

若者主導のコレクティヴ「クライメート゠ヴァンガード」は説明する。地域での食料栽培を「気候サバイバル゠プログラム」として見なせば、変革的な大衆運動構築の一環になり得る。ブラックパンサー党の朝食プログラムが民衆権力構築の鍵だったように、栽培は、気候崩壊の悪影響を緩和し、気候崩壊を引き起こしている経済システムを変革するために必要な力を構築する方法になり得るのだ。

彼等の主張は、世界中のアナキスト・左翼・急進主義オルガナイザーが論じているより広範な主張の具体的バージョンである。つまり、資本主義経済を克服したいのなら、それに代わる経済を構築し、自分達で実行しなければならない。住宅・エネルギー・教育・移民・労働組織など着手すべき場は無数にあり、どれも他がなければ上手く行かない。私達は、食を中心とした組織化には特別な役割と特別な力があると気付いている。

ある食料栽培コレクティヴが最近行った集会で、80歳近い女性の話に参加者全員が涙した。私達はグループを回りながら意見共有をしていた。彼女は普段は感傷的なタイプではなく、辛口で機転が利き自虐的なのだが、この時は慣習を破り、自分の年になったら基本的に新しい友人を作る機会はないと思うようになると説明した。そんな考えは諦めてしまう。自分と同じように体が不自由になると、家を出るのは年に数回、数日おきに介護者がひょっこり現れ、運が良ければ数週間おきに家族がやって来る。そんなリズムに馴染んでしまう。この特別な栽培コミュニティがこれを変えてくれた。彼女が受け入れようとしていた衰退を妨害したのである。

これは食をめぐる組織化の喜びのほんの一部に過ぎない。また、何世代にもわたって種子を保存するという平和的な恍惚感もある。敵意に満ちた都市で小さな本物の避難所を見つけた亡命希望者。外に出て体を動かしてほっとしている事務職員。人間であれ何であれ新しい友達。苺苗床で共有される希少で貴重な脆弱性。尊厳を回復する障がい者・高齢者・その他孤立した人達。7歳の時におばあちゃんから聞いたスイバについてうろ覚えで話す誰かさん。ひと時の休息をする疲れ果てた若い親御さん。新しい仕事。新しいスキル。新しく参加するグループ。ニュースが何と言おうと、この場所を気に掛けている人がたくさんいるという感覚。食べ物については言うまでもない。新鮮で、栄養豊富で、多くが今まで食べた中で一番美味しい。

こうした喜びを養分として吸収しながらも、今後の方向性について戦略的である必要を見失わないようにすることが重要だと思う。経験から、私は、こうしたプロジェクトは全て、食をめぐる草の根相互扶助組織作りをますます育成できる生態系を作り出すと知っている。私達がTTGを始めた時、オーガニックリーから教わった知識・ツール゠ライブラリーから借りた道具・こうしたグループ全てを繋げるネットワーク組織からの設立資金・他のコミュニティガーデンから分けてもらった苗木、これら全てによって、開かれたドアを押すように感じた。

この種の作業が、より漠然とした「創発的戦略」も可能にしている。活き活きした豊かな生態系は、生態系と同じ原則に基づいて構築された経済の可能性を常に想起させてくれる。土地との直接の関わりによって、開発業者から土地を守るための一般的コミットメントが高まる。現実的な仕事を与えられた空間の中であらゆる人と出会う。これが滅多にない貴重な連帯を育む条件を創り出す。代替的な食料経済の創造は、本当の意味で食費を下げ、物質的ストレスの負担を軽減し、人々は他の事に集中できるようになる。

しかし、この運動は古いものを「有機的に」置き換えるわけではない。ここから目的地に到達するための計画が必要だ。ここに幾つか重大な問題があり、私達は創造性を発揮しなければならない。

最初の問題はお金だ。代替食料経済の構築は労働集約的で、商品経済に参入すればするほど、価値の面で多くの妥協をしなければならなくなる。「オーガニックリー」は野菜ボックス゠システムの構築に成功し、安定した収入を得ると共に、他の農場で育てられた有機的で環境再生型の食品を配布できるようになった。しかし、彼等の収入の半分は補助金と指導料金である。他のプロジェクトの大部分も補助金とボランティア労働に頼っている。金銭的な見返りのない労働を全て無給と呼ぶのは全く正しくない。「ボランティア」は大抵相互交流の一部であり、余剰食料を受け取ったり、知識を共有したり、その他それほど具体的ではない地域の恩恵を受けたりするものだ。しかし、ご存じの通り、革命は補助金で賄われないのだ。

これに対する自治主義の解決策はこうした協同組合的代案における更に多くの能力の構築である。地域のコミュニティガーデンから自身の食料協同組合の食料を購入し始める。労働者の報酬として食事と生産物を無料で入手できるように代替通貨を創る。慈善を過去の遺物にするよう連帯価格の倫理を説明し、当たり前にする。

しかし、次の問いにも価値がある。この新たな連帯経済に取り入れられる社会的連帯システムは既に存在しているのだろうか?全国の急進的評議会が行っているコミュニティの富の構築を手本にして、学校や地方議会部局といった地域の公的機関が地元の生産者を支援するために食費を使い始めたらどうなるだろう、と思い巡らすはずだ。

TTGの視点からは、個人菜園スペースは2000ヘクタールあり、これを慎重に管理すれば、一年に6700万キログラムの食料を生産できると分かっている。これは全人口が必要とする果物と野菜の半分以上に相当する。仮に、自治区住民の半数が食料栽培に関心を持つと、この取組を調整するために数百人の常勤有給職員が必要になる。このプロジェクトの喜びには食料生産の非商品化があり、その革命的価値の一部は非資本主義経済の規模と弾力性の増加にある。ただ、その半分だけを(例えばフダンソウの卸値で)売ったとしても、年間8300万ポンドの価値になる。これは、最低賃金を遥かに上回る賃金中央値で換算すると2000人分以上の給与に相当する。

コミュニティ活動を行っている人なら誰でも知っているが、もう一つの課題は、人々の生活の向上は、投機家と開発業者にとって土地の価値を向上させる点にある。私達の活動は全て常に搾取と抽出にさらされている。革命的戦略にはこのような事態から身を守る方法が組み込まれねばならない。こうした地域の食料システムから得られた剰余収入が自動的にコミュニティ土地信託と住宅協同組合に向けられるとしたらどうなるだろうか?

明らかに、絶対に重要なのは、ローカルフード運動がより大きな変革運動と密接に結びついていることである。だが、どのようにして?その片鱗はある。最近、「グリーナーズ」(私達のコミュニティカフェ協同組合の一つ)と「ホーンビーム」(食料再分配に焦点を当てた環境保護センター)は難民立ち退きを阻止する大衆行動に食料を提供した。私の知る限り、最も整備された私達のフォレストガーデンの一つ「ウェルカム゠フォレスト」は、刑事司法制度の最前線に立つ直接行動活動家のために休息と治療のスペースを提供している。また、私は、ガーデニング集会が穏やかな形の意識向上イベントになり得、人々が自分達の生活・自分達の諸問題・それらを扱おうとしている組織的活動との繋がりを築いているのも目にしてきた。

更に遠くを見ると、可能性は倍増する。コミュニティ食料生産はストライキ中の組合労働者を支援できる(フランスの黄色いベスト運動のためにZADが行ったように)。アグロエコロジーは、土地占拠(ブラジルのMSTを参照)のような更に戦闘的な戦術と組み合わせられる。そして、土地労働者同盟の頑強な地方代表団はビア゠カンペシーナの世界的取組に貢献できる。

多くの革命は様々なクラブやコミュニティ゠グループのおかげで、社会を迅速かつ徹底的に変革するために必要な萌芽的組織を手にした。もしかすると、現代の革命にとって、それは私達の菜園かもしれない。