ハワード・ジン

報復

RETALIATION

2001

 テレビの画像には胸が痛む。火の中で、死に向かって跳躍している人々、煙と誇り に巻かれながら、恐怖とパニックのまっただ中にいる人々。私たちは、数千人の人々 が生きながら焼かれ、瓦礫の中で息絶えたことを知った。私たちはハイジャックされ た飛行機の乗客たちの、衝突、火炎、そしてそのなかで死を迎えるのだという恐怖を 思い浮かべることができる。これらの光景は、私を怯えさせ、苦しくする。

 それから私たちの指導者は、テレビに出演して言った。私は再び怯え、苦しくなっ た。彼らは報復、復讐、処罰を語った。私たちは戦争の中にあると言った。私は考え た、彼らは何も学ばなかった、絶対に何も。100年の間に報復、復讐、戦争があっ た、テロとそれに対するテロがあった、暴力が暴力を生むという際限のない愚かさが あったことを。

 私たちは皆、数多の罪もない人々を殺した人物に激しい怒りを感じる。しかし、そ の怒りをどうすればよいのか。私たちはパニックのなかで反応するのか、暴力的に攻 撃するのか、私たちの強さを盲目的に示そうとするのか。大統領は宣言した、「私た ちはテロリストとテロリストをかくまう国々とを区別しないであろう」と。私たちは アフガニスタンに爆撃を行うのか、そして必然的に罪のない人々を殺すのか。爆撃は 当然にも区別はつけられないのだから。なるほど「区別はしない」!私たちは、テロ リストにメッセージを送るためにテロに参加するのであろうか。

 私たちは以前行ったこと、考えたり行ったりした過去のことを振り返る。それは決 してうまくいかなかった。レーガンはリビアを爆撃した、ブッシュはイラクに戦争を しかけた、クリントンはアフガニスタンを爆撃しスーダンの製薬会社も爆撃した。テ ロリストにメッセージを送るために。そしてニューヨークとワシントンで、この事件 が起きた。テロリストにメッセージを送るのに、暴力では効果がないこと、さらなる テロを招くことは、今まででもうはっきりしているのである。

 私たちは、イスラエルとパレスチナの紛争から何も学ばなかったのか。パレスチナ 人の爆薬を仕掛けた車とイスラエル政府の戦車の攻撃とが、何年も続けられている。 それでもうまくいかず、両陣営で罪のない人々が死んでいる。

 もう旧い思考ではなく、新しい考えが必要なのだ。私たちは、アメリカの軍事行動 による犠牲となった世界中の人々の怒りを想起しなければならない。ヴェトナムでは テロとでも言うべき爆撃が農村に対して行われ、ナパーム弾やクラスター爆弾が使わ れた。チリとかエルサドバドルなどの国々では、私たちは独裁者や殺人部隊を支え た。イラクでは、経済制裁の結果として100万人が亡くなった。そして多分、現在 の事態を理解するために重要なのは、ウエストバンクやガザの占領地域であろう。そ こでは、100万人以上のパレスチナ人が残虐な軍事的支配のもとに生活している。 私たちの政府は、イスラエルにハイテクの武器を供給しているのだ。

 私たちは、テレビに示されている怖ろしい死と苦痛の場面が、長い間世界のアメリ カ以外の地で続けられてきたことを想起する必要がある。今こそ私たちは、私たちの 政策の結果として人々が経験してきたことを知り始めることができるのだ。私たち は、テロに対して怒りを持たない人々がいることを理解しなければならない。

 私たちには新しい思考が必要だ。3000億ドルの軍事予算が私たちに安全を与え ないこと、世界中にある軍事基地、あらゆる海域の軍艦が、私たちに安全を保障しな いこと、地雷が、ミサイル防衛網が私たちに安全を保障しないことを。私たちは世界 に於ける自らの位置を再考しなければならない。他民族あるいは自民族を抑圧してい る国々に武器を送ることをやめる必要がある。政治家やメディアによってどんな理由 があげられようとも、私たちは戦争には行かないと決意する必要がある。なぜなら、 私たちの時代の戦争は、常に無差別である、罪なき人々に対する戦争、子どもたちに 対する戦争、というように。戦争は、100倍に増幅されたテロである。

 私たちの安全は、武器や航空機、爆弾ではなく、人々の健康や福祉、すべての人々 への医療行為、教育、満足できる給料で保証された家、きれいな環境に国富を費やす ことによってしかあり得ないのだ。私たちは、政治指導者が要求するような自由の制 限によってではなく、それらを拡大することによってのみ安全なのである。

 私たちは、軍隊や政治の指導者が報復や戦争を叫ぶことではなく、騒乱のまっただ 中で生命を救ってきた医者、看護婦、医学生、消防夫、警察官を手本にするべきであ る。彼らのまずはじめの考えは、暴力ではなく癒しであり、復讐ではなく同情なので ある。


ハワード・ジンは歴史学者。『民衆のアメリカ史』上・中・下(TBSブリタニ カ)


https://web.archive.org/web/20020219175437/http://www1.jca.apc.org/aml/200109/23649.html(2023年2月19日検索)
訳:小池善之