タイトル: インタビュー:中東における民主主義vs資本主義
発行日: 2023年11月14日
ソース: https://note.com/bakuto_morikawa/n/n22c97040db45(2023年12月19日)
原文:https://freedomnews.org.uk/2023/11/14/interview-democracy-vs-capitalism-in-the-middle-east/
備考: 『フリーダム』によるクルド女性防衛部隊(YPJ)メンバーのインタビュー。

それまで民主的民族連合(Democratic Nation)という概念を聞いたことのない人に民主的民族連合という考えをどのように説明しますか?

民主的民族連合モデルは、同じ祖国の民主的で倫理政治的な社会の中で、様々な民族が自由な生活を送れるようにしようとしています。このモデルが表しているのは、階級的区別・国家特権の余地がない多民族・多言語システム内での自由で平等な個々人の団結です。このモデルは、異なる文化・言語・民族の間に敵対関係を築こうとする国民国家の特徴に対する批判から生まれました。国民国家の論理とは逆に、民主的民族連合モデルは、様々なコミュニティを基盤とします。全てのコミュニティは、それぞれが共有する文化的・言語的・民族的・宗教的アイデンティティに従って自らを表現し、組織する権利を持っていると同時に、一つの共通の組織的プロセスに参加します。民主的民族連合モデルの設計者アブドゥッラー゠オジャランは次のように述べています。「民主的民族連合は、あらゆる文化・民族・宗教の人々だけでなく、基本的権利と自由を等しく共有する個々人からも構成される。」また、「諸社会にとって、国民国家モデルは落とし穴であり、抑圧と搾取のネットワークに他ならない。民主的民族連合はこの定義を逆転させる。民主的民族連合の定義は、硬直した政治的境界、一つの言語・文化・宗教・歴史解釈に縛られない。それが意味するのは、多元性と諸コミュニティ、自由で平等な市民の共存と連帯である。民主的民族連合は人々が民族そのものになれるようにする。権力と国家に依拠せずに、本当に必要な政治化を通じて民族になるのである。その目的は、政治化を通じてだけでなく、国家の成立・権力獲得がなくとも、一つの民族は、経済・法律・自衛はもちろん社会的・外交的・文化的領域においても自治的諸機関を創設でき、そのことで自身を民主的民族連合として建設できると証明することである。」

民主的民族連合モデル内の様々なコミュニティは連邦システムで相互に組織します。この連邦システムは、草の根参加に基づき、コミュニティの評議会とコミューンでの意志決定プロセスを伴います。最も強力な政治的実体は社会の最小単位、コミューンです。コミューンに始まり、社会は下から上へ組織されます。これにより、トップの総会は、下にいる人々を支配するのではなく、行政上の任務を実行し、諸コミュニティの意志を遂行するのです。次の上位政治機関に送り込まれる代理人は誰もが命令的委任を持ちます。つまり、評議会やコミューンの意志に従って働かない場合はいつでも直ちに代理人の立場を剥奪されるのです。

さらに、共同議長システムによって、あらゆる政治体が男女2人で代表されるよう保証されています。民主的民族連合システム内のあらゆる政治体で女性の定数(訳註:原文は「quote」だが、「quota」の誤りだと思われる)が50%であり、あらゆるレベルでの女性参加を保証しています。宗教的・民族的・文化的マイノリティは、青年メンバー同様、高次行政機関と総会に一定数参加できるようにしています。

民主的民族連合モデルは、一つの地域に住む人々が数千年にわたり様々な帝国と国民国家によって支配され、分断されてきたという危機的局面に答えるものだと理解することが肝要です。中東は多様な民族から成るユニークなモザイクであり、こうした民族全てがそれぞれの文化的アイデンティティを放棄せずに、平和で調和して生活する権利を持たねばなりません。民主的民族連合モデルは、共通の価値観・諸原則・権利を基礎としているのであって、民族的アイデンティティの厳格な理解や民族主義的理解に基づいてはいません。民主的民族連合モデルの国民性は、支配者が強制的に構築するものではなく、民衆自身の民主的意思によって創造されるのです。

過去11年にわたり、ロジャヴァ革命は、最初はダエシュ(イスラム国)のために、今はトルコ国家のために、莫大な苦境に陥りながらも繁栄してきました。民主的民族連合の理念はこのような逆境に直面してどのように人々を結び付けているのでしょうか?

北シリアと東シリアにいる人々は、ISISやトルコ国家が行ったような最も恐ろしい残虐行為に曝されてきましたし、今も曝されています。長年の戦争を経て、人々は、自分達が標的にされているのは民主的民族連合のパラダイムを信じているからだと充分理解しました。北シリアと東シリアがこれほどまで酷く攻撃されるのは、ここにいる人々があえて国境外で思考し・生活しているからです。国境は国民国家の覇権的権力が何世紀にもわたって人々に押しつけてきました。私達は理解せねばなりません。世界規模の資本主義システムこそ民衆分断の基盤です。ヒエラルキー型搾取階級システム・レイシズム・5000年続く家父長制システムが人々を分断しているのです。この分断は権力者が人々を抑圧・統制・支配するために必要なのです。民主的民族連合の概念とそのロジャヴァ革命への適用は、このシステムに対する歴史的代案を示しています。北シリアと東シリアで女性は、直接民主制の中で生き・協同組合に基づく経済を持ち・自然と調和した暮らしを目指そうとする社会の中核要素を築きました。民主的民族連合の理念で結合した人々とトルコやISISの残虐な攻撃との関係は、充分理解されねばなりません。攻撃が行われるのは、人々がこのパラダイムを信じているからです。資本主義的現代性は第三の途を、このモデルが示している代案を、恐れています。そして、攻撃されればされるほど、人々は民主的民族連合に結合します。資本主義的現代性が中東に引き起こしている暴力に対する唯一の解決策だからです。

人々がこのパラダイムに結びついているもう一つの理由は、それを防衛するために払った犠牲です。この地の人々は、ISISのいわゆるカリフ制を終わらせ、トルコによる暴力的占領と戦い、自分達のコミュニティを自主組織する権利を守るために何万人もの殉教者を出しました。ここで、私達の民は、全ての殉教者は約束だ、と言います。つまり、自分達が勝ち取った価値観を守るため、そして民主的民族連合モデルをさらに発展させるために殉教者の途を歩み続けると約束しているのです。北シリア・東シリアには、自由な生活を求めた闘争で様々な家族メンバーを失った多くの家族がいます。一例を挙げると、数日前の2023年10月27日にトルコのドローンで自宅を攻撃されて暗殺されたフェルハド゠デリク氏の家族です。彼は、革命初期にYPG(クルド人民防衛隊)に参加していたSDF(シリア民主軍)の司令官でした。彼はイスラム国とのほとんど全ての戦いに参加し、長年にわたって自衛隊を指揮・指導してきました。彼の家族のうち7人が革命防衛のために命を捧げました。彼の双子の兄弟はISISとの戦闘中に殉教し、いとこは2014年末にISISがヤズィーディー教徒に対して行った虐殺から彼等を守るために殉教しました。別な家族メンバーは北・東シリア自治行政執行評議会の副共同議長で、南クルディスタン/北イラクのスレイマニヤでトルコのドローンに暗殺されました。北シリア・東シリアでこのほど大きな犠牲を払ったのはこの家族だけではありません。自分の信念に命を捧げた何万人もの殉教者がいることで、生きている人は殉教者が体現した諸原則との絆をより一層深めているのです。

革命に対する民衆の献身を理解する上で重要な点がもう一つあります。アブドゥッラー゠オジャランがほぼ20年間シリアにいたことです。1998年まで、彼は何千人もの人々--革命家・国際主義者・多くの一般人(多くの女性・母親・子供さえも)--を自分のアカデミーに迎えました。彼は、こうした人々に耳を傾け、政治・歴史・社会学を教え、社会主義の諸原則・弾圧への抵抗方法・自由な生活を創造する方法を議論しました。彼の絶え間ない努力と献身が民衆に希望を与え、抵抗の精神と自由な生活への願望を植え付けたのです。彼の仕事と活動がロジャヴァ革命の基礎を敷き、数年後にオジャランの実践と理論に刺激されて人々が革命を始めました。従って、北シリアと東シリアの人々は、高度に政治化されています。何故自分達が攻撃されているのか・自分達がどのような価値観と諸原則を持っているのか知っています。非常に多くの犠牲を払ってきたからこそ、この地の人々は全身全霊をかけて殉教者の途を歩もうとしています。だから、あらゆる葬儀やデモでアラブ人・クルド人・アッシリア人・アルメニア人などが敵の戦略を絶対に成功させない・血の最後の一滴まで革命を守ると叫んでいる声を聞くのです。

私達は、セヒド゠ハキ゠カレル(Sehid Haki Karer)とケマル゠ピル(Kemal Pir)のような同志達の話を通じて、クルド人運動は当初から国際主義だったと知っています。YPG/YPJと共に活動している国際主義/国際主義者は、ロジャヴァに建設されている民主的民族連合にどのように貢献しているのでしょうか?

クルディスタン自由運動の始まりから高度な国際主義精神がありました。もちろん、この運動は当初、民族解放運動路線に従っていましたが、クルド人だけの自由な生活という理念を一度も発展させなかったのです。民主的民族連合モデルの出現と共に、自由運動の国際主義的性格がさらに増加し、徐々に世界中の人々がクルディスタンにおける革命プロセスの歴史的重要性を理解しました。この精神は、ロジャヴァ革命にも見られています。革命の始まりから、多くの国の国際主義者が革命の隊列に参加しました。当初、大部分の国際主義者はYPG/YPJ部隊に参加しようとやってきました。彼等は、この革命の価値観がクルド人だけにではなく、あらゆる人間に属するものだと理解したからです。彼等はこの革命の保護を自分達の責務だと見なし、革命防衛に命を捧げました。国際主義の殉教者は、ここ北シリア・東シリアの人々にとってだけでなく、世界中の弾圧されている人々・自由を愛する人々全員にとって計り知れない無形の価値を生み出しました。今もなお、国際主義者は革命に積極的に参加しています。自衛部隊への参加以外にも、彼等は社会の様々な活動に参加しています。このパラダイムの翻訳と普及に努めたり、民主的同盟を世界的に構築する手助けをしたりしています。ロジャヴァ革命への国際主義者の参加が持つ最も重要な側面は、様々な革命運動間の交流、そしてクルディスタンでの経験からの学びです。私達は、民主的連邦主義は、中東だけのモデルではなく、至る所で実行可能な、帝国主義・資本主義・家父長制システムの代案だと信じています。

10月初め以来、ファシストのトルコ国家はロジャヴァのインフラに大規模爆撃を行っています。爆撃の影響はありますか?NATOで2番目に大きな軍隊に攻撃されている時、どのように自衛しているのでしょうか?

10月4日以降、トルコは、北シリア・東シリアの極めて重要なインフラに大規模空爆を行いました。こうした攻撃の主要ターゲットは11カ所の電力施設・多数の石油施設とガス施設・3つの工場・給水所などでした。爆撃は、セレカニエから強制移住させられた人々が生活しているワシュカンニ難民キャンプのすぐそばでもありました。こうした攻撃は、例えば、難民キャンプにパニックを引き起こしました。一般的に言って、インフラに対する攻撃は約500万人に莫大な影響を及ぼします。様々な都市で都市全体が停電しました。前々から生活必需品の供給不足に苦しんでいる地域でこうしたことが起こっています。最初の推計では物質的損害は、焼失した油田とガス田を含め、10億ドルと言われています。しかし、既にほとんど物を持たずに生活している人々にとっては、大きな打撃の一部にすぎません。一方で、攻撃によって数多くの民間人が負傷し、9歳と10歳の子供を含む10人が死にました。また、トルコは、ある事件で6人、別な事件で29人の国内治安部隊隊員を虐殺しました。10月8日、トルコはデリクのハムザ゠ベグにある麻薬撲滅部隊アカデミーを連続空爆し、29人の死者と多数の重傷者を出しました。このアカデミーは活動を止めねばなりませんでした。この攻撃は住民に多大な心理的影響を及ぼしています。攻撃が民間人を主な標的にしているため、そして長年にわたりウンザリするほど攻撃が繰り返されているからです。トルコが女性運動「コングラ゠スター」で活動する3人の女性を標的にした2020年6月21日以降、絶え間なく、ドローン攻撃と空爆が北シリア・東シリアに行われています。こうした攻撃は数々の国際法に違反しています。いわゆるダブルタップ攻撃も行っており、負傷者を助けに来た人も標的にされ、民間人と政治家、ISISから世界を救った自衛部隊(YPJ・YPG・SDF)も幾度も標的にされています。インフラに対する攻撃も今回が初めてではありません。昨年11月にも小規模ながら同様の攻撃がありました。トルコは、ロジャヴァと南クルディスタンを含むシリア北部とイラク北部の大規模な地域を占領しようとしています。そのために、トルコは様々な手段を使っています。徐々に日常生活を耐えがたいものにしようとして、インフラを攻撃し、住民を強制退去・大量虐殺し、政治分野で働いていようと自衛活動をしていようとロジャヴァ革命の先駆者を殺害しているのです。

こうした攻撃が行われているのは、他のNATO軍が無言の同意をしているためです。「ISISと戦う国際連合」が今もこの地域に存在し、トルコの動きを知らないはずがないのですから、これは明らかです。確かに、ISISをこの地で撃退したのも、ISISが2014年にシンジャールを大量虐殺しようとしていた時にシンジャールを助けに来たのも、ロジャヴァ民衆とその自衛部隊でした。誰もが知っています。しかし、民衆は、ISISがもたらした恐怖とISISの戦闘方法だけに対峙しなければならないわけではありません。NATOもこの地域に対して高度テクノロジーを駆使した戦争を仕掛けています。国際的に支援されたトルコ製ドローン部隊から身を守るのは困難です。トルコは、この高度テクノロジー戦争に投資しているために自国の経済を崩壊させています。

この戦争に対してこの地の民衆を組織することとは、こうした攻撃に対抗する組織を作ることを意味します。まずは全社会を組織し、教育するという意味でもあります。つまり、全ての一般人が自分の生活を調整し、こうした攻撃に立ち向かい、生活情況が困難な中で抵抗するという意味です。この視点は、アブドゥッラー゠オジャランが長年にわたって創り上げたもので、「革命的人民戦争」と呼ばれています。それは、正当な自衛の枠組み内で行われる戦争について語っています。女性と青年は、社会の中核であるが故に、自衛の中核的役割を果たします。ただ、そこには、こうした戦争に直面して自衛しなければならない一方で、最終的には政治的解決を求める必要があるといった多様な側面が含まれています。

最も重要なのですが、革命の防衛は民主的勢力を中心としています。様々な民主的もしくは反資本主義勢力・運動間の外交も不可欠です。しかし、決定的ポイントは、社会の自衛を組織することです。つまり、何よりもまず、自衛のメンタリティを創り出して教育するという意味です。この闘争は、軍隊の伝統的理解に留まらず、人間存在の落とし穴について語っています。最も大切なのは、まずは女性の自由とエコロジカルな生活を中心に据えることです。NATO軍に抵抗するには多くの信念と創造力が必要です。また、世界中の民主主義・反資本主義・フェミニスト・社会主義・アナキストの諸勢力・個々人・諸運動の連帯と友情も必要です。

民主的民族連合の理念は、中東や世界に対する政治的解決策を見つける上でどのような手助けをできるでしょうか?私は、特に、現在の情況とイスラエル国家によるパレスチナ人虐殺のことを念頭に置いています。この情況を救うためにオジャランの思想はどのように活用できるでしょうか?

民主的連邦主義がどのように中東の情況に対する一つの解決策たり得るのかを理解するためには、この地におけるここ数世紀の歴史を分析しなければなりません。私達が住む地域は、常に、多様な民族・文化・宗教集団の存在を特徴としています。根本的に異なる起源を持つ諸文化が、数千年もの間、この土地で出会ってきました。南メソポタミアはセム族の発祥地で、現在はアラブ人・ユダヤ人・シリア人などがこの地域で代表的です。北メソポタミアはアーリア族の発祥地で、クルド人・ペルシャ人・アルメニア人などが含まれます。紀元11世紀に、中央アジアのトルコ系住民が現在のアナトリアに移動し、オスマン帝国を短期間で建国しました。こうした民族は全て、何百年もこの土地で生活し続けていました。こうした民族・言語・文化は全てこの地の活気溢れる生活に貢献してきましたし、現在も貢献しています。共存は必ずしもいつも平和的というわけではなかったものの、今日のファシスト政権による大量虐殺政治は最近始まったものです。

根本的変化が起こったのは、国民国家がほぼ唯一の政治行政方法となった第一次世界大戦以後です。私達の地域で、多民族のオスマン帝国が解体され、トルコの国民国家建設プロセスが始まり、この民族主義的・排外主義的イデオロギーが広がりました。アルメニア人・ギリシャ人・アッシリア人(訳註:原文はAsyrianだが、Assyrianの誤りではないかと思われる)が国外追放と大量虐殺に苦しんだのは、これらの思想のためであり、ラズ人が同化させられたのもこれらの思想のせいです。これらの思想のために、クルド人は様々な大虐殺を被り、4つの国家に分断され、4つの国家全てでクルドの文化的アイデンティティを抑圧されています。

19世紀末に生まれたシオニスト゠イデオロギーは、「シオンの地」すなわち一般にパレスチナ/イスラエルと見なされている地域に、ユダヤ人国家を建設し、その結果、民族的・宗教的に均質な国家を再建するという思想に基づいています。ドイツのナチス政権による大量虐殺とファシストによる迫害で、ユダヤ人は移住を余儀なくされました。多くが、シオニスト゠イデオロギーに影響を受け、パレスチナ/イスラエルの土地に移住しました。イスラエル国家は1948年に誕生しました。シオニズムの出現まで、アラブ人・キリスト教徒・ユダヤ人の住民がこの土地に共存し、異なる言語を話し、それぞれがキリスト教・ユダヤ教・ムスリムの信仰を公言していました。国民国家の到着がヨルダン川から地中海までの土地にもたらした占領と虐待は最近の有名な歴史です。だからこそ、民主的連邦主義の提議は、国家の提議に代わる解決策になるのです。肌の色の異なる人々が共存でき、自決でき、集団的に自分達の未来を選択できる解決策です。この解決策の目的は、政治的・倫理的社会の構築にあります。集団的決定に基づいて自分達の未来を選択し、決定できるという意味で政治的、その集団的決定がそこに存在する全ての民族のニーズを擁護する価値観に基づくという意味で倫理的なのです。

アブドゥッラー゠オジャランはパレスチナ-イスラエル情勢について次のように述べています:

ウルファ出身者として、彼等に対する私のささやかな提案は、彼等は民主的現代性の枠組み内での解決策を模索すべきだというものである。私は声明の中でこの点を展開しようとしている(現在のイスラエル国民国家は私の逮捕・有罪判決・処罰に直接関与しており、そのために、私は答弁書を書かねばならなかった)。ユダヤ人のルーツを持つ知識人は、間違いなく、このことについて高度に先進的な考えを持っている。しかし、考えを発展させるだけではこの問題を解決できない。ユダヤ人は、諸原則と倫理に基づく中東の民主的文化に再び働きかけねばならない。中東の国民国家地政学によれば、イスラエル国民国家は常に戦争の舞台にならねばならない。火を火で消すなど不可能だ。資本主義現代性の覇権的勢力がイスラエルの側にいると知ってイスラエルが自信を得たとしても、問題を根源から解決するのに決して充分ではない。資本主義現代性を克服していないシステムは、いかなるものであれ、長期的安全を提供できない。ユダヤ社会が組織を作り、生活するための解決策を、特にイスラエル問題に対する解決策を見つけなければ、中東社会も世界中の社会もそれぞれの問題を解決できないだろう。イスラエルとパレスチナほど、国民国家の展望ではその問題を解決できず、逆に悪化させてしまうと明確に教えている例はない。イスラエルとパレスチナの戦争に巨額の資金が投入され、多くの血が流された。これら全てが解決の難しい大きな問題を残したのだ。

イスラエルとパレスチナの場合、資本主義現代性とその国民国家パラダイムの破綻がよく分かる。ユダヤ民族は、中東文化に欠かせない民族の一つである。彼等の否定と虐殺は万人に大きな損害を与える。ユダヤ人の大量虐殺を実行したレヴィアタンに平和と安全な生活はあり得ないと明らかになった。ユダヤ人は、アルメニア人やアッシリア人同様、民主的民族連合として再建できるし、「中東民主的連邦主義」に容易く参加できるのである。

このテーマに関しては、「東地中海民主的連邦主義」の考えが良いきっかけになるかもしれません。このプロジェクトでは、宗教的・民族的アイデンティティの独断的理解がもっと柔軟で偏見のない理解へと変容し、イスラエルはもっと受け入れやすい民主的民族へと変貌するでしょう。間違いなく、同じ変容がイスラエル近隣諸国に必要でしょう。中東の激しい緊張・衝突・戦争は現代性を変容させています。深刻な社会的・民族的諸問題は現代性を変容しなければ解決できません。まさにアラブとイスラエルの矛盾そのものが現代性の変容が必要だと示しているのです。支配的システムが根本的諸問題を解決できないのなら、システムそのものを解体しなければなりません。「民主的現代性はこの解体に対する代案なのだ。」

中東を壊滅させているもう一つの大問題は、イスラム教の誤った解釈です。これが、原理主義的解釈に繋がり、女性と社会全体に対する暴力と抑圧を助長しています。ご存じの通り、民主的連邦主義の主な焦点の一つが女性解放です。私達は、女性解放を、社会解放の鍵だと見なしています。女性を解放できれば、女性が自衛できるよう組織できたなら、原理主義政権蔓延を防ぐツールを女性達が手にできるようになります。この意味で、民主的連邦主義は中東諸問題の解決策なのです。また、これには、女性の権利と価値を認め、他の宗教と前向きな関係を築く民主的イスラムへの転換も含みます。

この文脈で各地域を別々に分析しようとせずに、もっと広く世界全体を見てみると、全体的に混沌とした情況が見え、国民国家が民衆に真の解決策をもたらしている場所など世界にはないと分るでしょう。自由主義と資本主義は社会をまとめる価値観を破壊しています。近い将来、莫大な規模の生態系危機がやってきます。女性が使用人として自宅に閉じ込められない場所でも、女性の肉体とアイデンティティは商品として売られており、このシステムになおも抵抗している革命グループも分裂し、バラバラになっています。個性はシステムの前でますます弱くなり、解決策をもたらせなくなっています。これは、絶望的かつ緊急にホリスティックな解決策が必要な情況なのです。そして、アブドゥッラー゠オジャランはこの情況を深く理解していたのです。


ローザンヌ条約と中東における国民国家の出現の影響に関するもっと綿密な分析は、次の記事を参照:https://ypj-info.org/inside-the-ypj/100-years-since-lausanne-100-years-of-resistance/