タイトル: フィンランドのアナキストへのインタビュー
発行日: 2020
ソース: https://note.com/bakuto_morikawa/n/n3fb78178c5a3(2023年4月21日検索)
備考: 原文:https://freedomnews.org.uk/2022/05/20/interview-with-a-finnish-anarchist/
原文掲載日:5月20日(bakuto morikawaより)

ギリシャのリバータリアン雑誌「Aftoleksi」のYavor Tarinski(ヤヴォール゠タリンスキー)は、最近のフィンランドのNATO加盟申請について、フィンランドの反権威主義グループA-ryhmä(グループA)のAntti Rautiainen(アンディ゠ラウティアイネン)にインタビューを行った。

YT:こんにちは。(出身とか活動に参加している場所とか)自己紹介をお願いします。

AR:私はフィンランドのヘルシンキに住んでいて、地元のアナキスト゠グループ「グループA」に参加しています。グループAは2006年に設立されました。デンマーク・フィンランド・スウェーデンの数多くのグループと共に北欧自治革命同盟(ARNA)の一員です。私は1999年~2012年までロシアに住んでいて、リバータリアン共産主義組織「Autonomous Action」に参加し、政治活動を行ったために、2012年にロシアから追い出されました。

YT:フィンランドでのリバータリアン思想や反権威主義思想、その実践の情況について教えてもらえますか?

AR:アナキズムと反権威主義の思想がフィンランドにもたらされたのはロシア帝国の時代です。米国とスウェーデンのフィンランド移民コミュニティにも大きな影響を与えています。フィンランドでは、1939年~1967年にはほんの一握りの個人的アナキストしかいませんでしたが、それ以降は、いろいろありながらも続いています。ほとんどのグループが閉鎖的な親和グループだったり、何らかのプロジェクトをベースにしたりしていますが、私達のグループは新しい仲間を歓迎しています。

YT:フィンランドの草の根運動は、いわゆるBUR(ベラルーシ・ウクライナ・ロシア)の運動と何らかの結びつきはありますか?

AR:私達のグループはロシアの反権威主義運動と密接に関係しています。2014年以降、私達は「Father Frost Against Putin(プーチンに対抗するフロスト神父)」の開催に携わっています。これはヘルシンキのフェスティバルで、ロシアの草の根運動が弾圧を恐れずに集まれる機会を提供しています。しかし、2021年と2022年には開催できませんでした。新型コロナウイルスを口実に国境が封鎖されたからです。私達は、「ペストの後の祝宴」と題して2023年1月に再開しようと計画しています。今、フィンランドにはロシア人アナキスト・反ファシストの難民コミュニティがあり、最近はウクライナ人も来ています。

YT:ウクライナでの戦争についてこれまでどのようなスタンスだったのでしょうか(連帯、支援など)?

AR:私達はウクライナのアナキストを支援しています。彼等は レジスタンス委員会 を組織し、ウクライナの地域防衛軍等の軍事部隊と共に戦っています。さらに、私達は、ロシアのアナキストによる非暴力の反戦行動も暴力的反戦動も支援しています。フィンランド社会ではほとんどの人が、ロシアの政治に共感していませんし、戦争がNATOによって引き起こされたという主張にも共感していません。伝統的な共産主義者でさえこの路線を主張していませんね。

YT:ウクライナへのロシアの侵攻はフィンランドの人々にどのような影響を与えていますか?

AR:今のところそれほど影響はありません。ウクライナ民衆との連帯感情が大きいですね。まず、フィンランドのウクライナ人コミュニティが組織した大規模デモが幾度も行われています。難民への連帯行動も数多く行われています。しかし、大部分の人はいつも通りの生活を送っています。欧州のどこでもそうですが、ロシアからの輸入品が制限されたり禁止されたりしているので、生活費は上がるでしょう。フィンランドもある程度ロシアからのエネルギー輸入に頼っていますが、ドイツよりも依存度は低い。多くの人が、これまでEUが行ってきた以上に経済制裁を拡大することを支持しています。私達のグループも同じように支持しています。フィンランドにはベラルーシ人アナキストはいませんが、私達はヘルシンキのベラルーシ人コミュニティの抗議行動を支援してきました。ベラルーシ移民は、自分自身がアナキストではなくとも、大抵、ベラルーシのアナキストをとても好意的に見ています。

YT:ロシアがあなたの国にも侵攻してくるかもしれないという思いはどれほど強いですか?あなたの予想では、現実に起こる可能性はどのぐらいでしょうか?

AR:可能性はそれほどないと思います。ロシアと紛争が続いているわけではないので、戦争が起こるとすれば、他の地域の紛争がフィンランドの軍事同盟によって北に広がる場合だけでしょう。イタリアやポルトガル、英国でさえも、ニュースでフィンランドがパニックに陥り、脅されているなどと本当にデタラメな報道がされているのを見たことがありますが、全くの嘘です。私の知る限り、怯えているのは、南欧からやってきて、自国のデタラメなメディア報道をフォローしている人達だけです。

YT:ロシア国家に対するフィンランド中央政治の立場を簡単に紹介してもらえますか?

AR:冷戦時代、フィンランドは基本的に、資本主義側にいるソヴィエト連邦の同盟国でした。丁度、中国の鏡像のような感じですね。中国は社会主義側にいる米国の同盟国だったから。この立場を支持していたのは親ソヴィエト左翼だけではありません。例えば、ソ連との貿易で多大な利益を得ている産業界の一部もそうでした。

冷戦後、フィンランドの政治エリートはEUに加盟しながらも、ロシアと出来るだけ良好な関係を維持し続けることにしました。一般に、この100年間で、ロシアやソ連とフィンランドとの関係には三つの主要な感情があったとされています。
(1)恐怖
(2)ロシアを利用すれば金儲けできるという楽観論
(3)西欧への不信感

この最後の点は、フィンランドが国際連盟に加盟して英仏と緊密な友好関係にあったのに、冬戦争 の際にどの国も介入せず、フィンランドを支援しなかったためです。最初の二つが、今年の2月24日までフィンランド民衆の80%はNATO加盟に反対だった理由です。それ以降、(1)の感情が優勢になり、世論調査によれば、今では加盟反対は20%以下です。

YT:両国の間に、私達が知っておくべき公然の政治対立や舞台裏の問題は何かありますか?

AR:ありません。1990年代には第二次世界大戦で失った領土の返還がちょっとした政治問題でしたが、今では、誰もその話をしていません。

YT:フィンランドがNATOに加盟する可能性を考えると、中立性の放棄はどのような意味があると思いますか?グループAによる最近の声明は、EU加盟国としてフィンランドは既に他の加盟国全てと軍事同盟を結んでいる、つまり、既に「保護」されているのだ、と述べています。NATOへの加盟は防衛の問題ではなく、アイデンティティの問題だという意味でしょうか?この点を詳しく教えてください。

AR:中立性の放棄などというものはありません。EU条約には共同防衛条項があります。つまり、フィンランドは既に他のEU諸国と軍事同盟を結んでいたのです。

確かに、EUは共同防衛の具体的プランも作っていなければ、軍事演習を行ってもいません。既にNATOに加盟している国々には不要だからです。でも、ロシアがフィンランドを侵攻し、ヘルシンキを占領し、独自のユーロを発行した場合、ドイツやフランスが「自分達には関係ない」と言うわけがありません。もちろん、NATOの防衛は、共同計画がある以上、もっと迅速に対応できるでしょう。それに、米国はドイツやフランスよりも遥かに強力な武器を持っています。しかし、フィンランドとロシアの戦争は、たとえフィンランドがNATOに加盟していなくても、なおも必ずやEU/NATO対ロシアの戦争になるでしょう。

だから、基本的に、フィンランドで声高にNATOを支持している人達は、まずアイデンティティとしてNATOを支持しているのです。「民主的西洋価値観の共同体」--つまり、西洋帝国主義の伝統--の完全受容を望んでいるわけです。これは、事実上、現状と何も変わりません。もちろん、今ではNATO支持者が多数になっています。新しく支持者になった人達の大部分はアイデンティティからではなく、恐怖から、そしてプーチンに「くたばれ」と言いたいから支持しているのです。

(註:グループAによるNATO加盟に対する声明は こちら )

YT:今後フィンランドで何が起こっているかもっと正確な情報を手に入れるために、注目しておいた方が良いフィンランドのオルタナティブ゠メディア・リバータリアン゠メディアはありますか?

AR:グループAのウェブサイトはありませんが、私達は様々なソーシャルメディアを使っています。フィンランド以外の人達にはそれほど関心がない国内のトピックスがほとんどなので、英語で公開することはまずありませんが。

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また、フィンランドのアナキズムについては以下のリソースがあります。

Takku: DIY media project with free publishing
Toimitus: Libertarian online project
Makamik: Anti-authoritarian space in Helsinki
Mustan Kanin Kolo: Anarchist infoshop in Helsinki
Varisverkosto.net: Anti-fascist network,
Kapinatyöläinen: Anarchist magazine since 1989
Pikkimusta: Queer-anarchist collectivemedia