スハルト将軍率いる新体制(Orde Baru)の約30年で抑圧され、壊滅されられたインドネシアにおけるアナキズムの運動は、1990年代に新たに息を吹き返した。スハルト独裁政権の間、あらゆる左翼的運動は押しつぶされ、共産主義やその他の左翼的イデオロギーに関する否定的宣伝がおびただしく拡散された。アナキズムの再興が可能となったのは、インドネシア各地の学生運動、とりわけパンク文化によってだった。パンク・コミュニティは、欧米でアナキズム運動に関わるパンクバンドの歌詞や、アナキスト・パンク・ジンを通じて、アナキズムについて知るようになる。これらのジンは複写され、翻訳され、流通していった。数年を経て、アナキストの言説は次第に多様化していく。活動家、学生、労働者に影響を与え、さらに広範な層に届いていった。
これらのグループやネットワークの内外の展開を通じて、アナキストは様々な行動に関わってきた。そうした行動には、インフォショップの運営、本・パンフレット・ジンの出版、地域コミュニティとの連帯行動、ボイコットやサボターシュの行動、デモやブラックブロック、アート作品の形態による介入などがある。この運動の重要な構成要素のいくつかは、都市労働者、農村部の農民、土地の収奪や環境破壊に苦しむコミュニティへの支援提供にも関与してきた。
2009年にバンドンで始まった路上図書館(Perpustakaan Jalanan)は、他の地域にも拡がっていく。これは、アナキズム運動が教育を重視していることを示している。路上図書館はFood Not Bombsの名前で組織された公共キッチンを通じて、無償の配食も行なっている。2014年に始まったウェブサイトのanarkis.orgもまた、アナキズム運動に関連した自己学習と批判的議論のための重要なリソースとなってきた。2010年から活動を続けるフェミニスト・アナキスト・コレクティブのNeedle and Bitchは、女性やクイアにとっての安全な空間の提供、ワークショップの組織、インドネシアのアナキスト運動圏の特にフェミニスト界隈でジンを出版することに力を入れてきた。
インドネシアのアナキズム文献を英語に翻訳して出版することは、とりわけ、グローバルな思想と視点の交換という文脈など、いくつかの理由で重要な意味をもつ。この取り組みは、いわゆる「途上国」と呼ばれるインドネシアにおけるアナキズムのユニークな展開に光をあて、支配的な欧米のナラティブと対比する。
ヨーロッパの植民地主義はインドネシアの言語と文学に多大な影響を与えた。植民地期、ヨーロッパの植民地主義はかれらの言語と文学の形式を多くの次元でインドネシア社会に押し付け、それは今日まで継続している。欧米の文学は豊かで発展した国というかれらの特権的地位により、歴史的に世界的なステージを支配してきた。この支配的状況は、非西洋的視点の周縁化や欠落をしばしば伴い、グローバルな読書人に不均衡をもたらしてきた。インドネシアのアナキズムと批判的文献を翻訳することは、この不均衡を修正し、特権から隔たった地域の声を伝えるプラットフォームを提供し、より公正な言語文化の交換に貢献することを助ける。
古典的アナキズムは、言説を形成する主要な人物や運動によって、伝統的に欧米のレンズを通じて枠づけられてきた。これらの視点は、しばしばかれら自身の文化的バイアスと仮定を伴う。インドネシアのアナキズム文献を含めることで、わたしたちは欧米のナラティブの支配を問う、異なる視点の導入を望んでいる。アナキズムのグローバルな表現の多様性を認めることで、インドネシアのアナキズム文献の翻訳thisは、よりニュアンスを伴ったアナキズムの理論と実践の理解を提供することになるだろう。
欧米におけるアナキズムの展開は、その歴史的、政治的、社会経済的文脈によって顕著に形作られ、豊かな産業化社会の諸問題とイデオロギーを多く反映してきた。対称的に、インドネシアのアナキズムは、ポスト植民地の闘争、経済的格差、先住民の諸実践に特徴付けられた文脈から出現した。これらの相違を理解することは、いかにアナキズムが異なる環境において取り入れられ、展開していくのかに光を当て、アナキズムがローカルな問題に取り組む異なるあり方を明るみにする。
インドネシアのアナキズム文献は、インドネシアに特有な歴史的、社会的、文化的文脈によって形作られた、ローカルなアナキストやその他の急進的な運動と実践の独自の特徴を反映している。これらのテクストは、いかにアナキストの原則が、先住民族とローカルな闘争による影響も受けながら、インドネシアにおいて解釈され、実践されるのかについての洞察を提供する。これらの作品を翻訳することによって、読者はインドネシアのアナキズムの特徴を理解し、さらに、いかにインドネシアのアナキズムが西洋の解釈と関与し、異なるのかを理解することができる。
インドネシアのアナキズムと批判的テクストを翻訳することによって、わたしたちはいかにこれらの植民地の遺産がアナキズムのローカルな表現に影響し、いかにインドネシアの書き手が応答し、これらの影響をローカルなナラティブに変容させていくのかを明るみにすることができる。この試みは、テクストを入手可能にすることだけではない。これは、アナキズムについてのグローバルな言説を豊かにし、支配的ナラティブを問い、植民地の遺産の複雑な作用を認識することなのである。それによって、わたしたちは世界規模のアナキズム運動と、インドネシアの思想家と活動家の独自の貢献をより包括的に理解することができるだろう。
わたしたちページ・アゲインスト・ザ・マシーン(PATM)は、自主出版を促進する小さな独立系出版社です。メンバーの一人は、これまでに約30点のアートと社会政治をテーマとする本を出版してきました。わたしたちは1990年代から収集してきたアナキズムと社会政治的テーマの本とジンを1000点以上所蔵しています。現在、三人の小回りのきくチームで運営しています。今後は、インドネシアのアナキズムやその他の重要な社会問題についてのテクストを、先に述べた理由から、英語に翻訳することを目指しています。わたしたちは10代や子どもを含む初心者向けの本を今後出版したいと願っています。さらに、個人やコミュニティと協力しながら、本に関連した公正な利益分配のメカニズムを通じて、かれらのニーズに支援を提供する計画です。
PATMの主要な目的の一つは、第一線で出来事を目撃し、経験しているアカデミックではない書き手によるナラティブを底上げすることです。これらのナラティブを、複雑な学術的執筆スタイルの制約や要求なしに提示します。この目的が重要なのは、インドネシアにおける多くの書き手やアクティビストは、「十分」と見なされる高等教育を受ける特権や執筆の専門的スキルを持っていないからです。それゆえ、専門的な執筆が難しいために、批判的な考えを持った個人の多くは、かれらの経験、知識、感情を表現し、伝えることに苦労しています。PATMの出版は、草の根の声を直接届けるプラットフォームを提供することで、この問題に取り組むことを目指します。
協同組合として、PATMは平等、相互扶助、連帯の原則の下、共同で運営され、一人一人のメンバーが資源、生産手段、利益にアクセスすることを保証します。今後の展望は、ローカルな執筆者と協働して、批評的文献、社会的闘争、フェミニズム、アナキズム、クイアのトピックにしぼったテクストをより多く出版する計画です。
PATMはミラ、ミタ、ムヒーの三人によって始まりました。わたしたちは長年にわたり互いに協働してきた友人であり同士です。それだけでなく、それぞれの分野での熱心なアクティビストでもあります。ミラとミタはインドネシアのジョグジャカルタに根拠をおくアナキスト・フェミニストコレクティブのメンバーです。このコレクティブは、フェミニズム、アナキズム、クイア、エコロジー、土地をめぐる闘争に10年以上活発に関わってきました。
アクティビズムに加え、ミタとミラは書籍と出版の世界にも強い関心を持っています。二人ともジンに情熱を持つジンメーカーで、先にあげたテーマに関する文章を頻繁に執筆、翻訳してきました。ミタはこれまでに何冊ものアナキズムの本をインドネシア語に翻訳しています。その中には、エマ・ゴールドマンの『Anarchism and Other Essays』、アレクサンダー・ベルクマンの『What is Anarchist Communism?』、ルース・キンナの『アナキズムー入門ガイド』のほか、数多くの冊子を翻訳してきました。
そして、ムヒーはジョグジャカルタの批判的アートコレクティブのコレクティブ・スペースのメンバーです。このコレクティブは、アート、音楽、パフォーマンスなど多様なアート的手法を通じて、社会問題を熱心に支援してきました。ムヒーはアーティストで、出版分野で経験を積んだグラフィック・デザイナーです。これまでにムヒーは出版業務マネージメントに関わり、デザイン、挿絵などアートワーク、レイアウト、書籍印刷の専門的スキルを習得しました。
グローバルな読み書きの世界literacy sceneとアナキズム運動において、未だにわずかしか聞かれず、知られていない声と視点を拡散するのを支援する、わたしたちのこの重要な企画に、あなた方が参加することを呼びかけます。
わたしたちはまた、PATMの考えに関心を持つ人や出版社なら誰でも、この会話に参加し、関与することを呼びかけます。わたしたちとの協働を希望するであろう独立系出版社や人物を知っていたら、あなたからのどんな支援にもわたしたちは心から感謝します。
連帯の念ともに
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