タイトル: 病院を奪取せよ!…だが、どうやって?
発行日: 2023年7月31日
ソース: https://note.com/bakuto_morikawa/n/n30ffcb6b268c(2023年10月19日検索)

2023年5月、医療セクターを組織するブラック゠ローズ/ローサ゠ネグラ(BRRN)の闘士達がノースカロライナ州ダーハムで行われた「医療自治コンバージェンス(HAC)」に参加した。本稿は、参加者によるこのイベントの集団省察と分析、医療全般における急進的労働者組織の展望である。

BRRN労働委員会医療労働者メンバー著

今年5月、200人の反権威主義医療労働者が第一回医療自治コンバージェンスに参加すべくノースカロライナ州ダーハムに集結した。もっと多くの医療労働者が参加を希望していたが、申し込みが始まると一日で定員に達したため、参加できなかった。この出来事は医療労働者が急進的政治アプローチを強く求めていることを物語っている。パンデミックの始まりから私達が経験してきたこと、そして、この崩壊した世界でケアを提供しようとしている時に私達が日々目にしている人種差別資本主義システムの不具合を考えれば、当然である。

重要なのは、HACが抽象的・理論的に医療を論じる集会ではなく、医療労働者に特化した大会だったという事実である。急進主義者の間に組織作り志向を促すことが重要だと私達は考えている。つまり、「何を」(医療問題のような)から「誰が」(医療労働者のような)へと焦点を移すという意味である。医療労働者として、同じニーズと闘争を共有する人々と繋がる場が必要である。私達は医療業界上層部への対抗権力を構築しなければならない。同じように上層部に立ち向かっている人々と繋がる場が必要なのだ。

米国アナキストに組織作り志向はほとんどない。アナキストとアナキズムに近い人々は、争点型プロジェクトや閉鎖的イデオロギー集団といった活動家世界を志向する場合が多い。今日、米国の大部分のコミュニティが持続的で変革的な集団闘争の記憶から切り離されていることを考えれば当然である。これはアナキストに限らない。米国左翼の規範はスペクタクルだ。私達の要求を満たす力を誰が持っているのかについて批判的関与をせず、抗議行動やデモ行進(多くの場合はプロの活動家が組織する)でメディアや「一般大衆」にアピールする。米国のアナキストはこうした抗議行動を街頭で行うが、その多くは、一つのデモが民衆の力をどのように構築するのか一貫した感覚を持っていない。最近行われている様々な反権威主義政治プロジェクトの多くが内面に焦点を当て、私達がどのように発言し、個々人の思考と社会関係をどのように脱植民地化するのかを強調する。私達に必要なこと--アクチュアルなアナキズム社会革命--は、私達が今ここで現実に進められるものではなく、単にレトリックとしてしか想起されない絶望的に非現実的ヴィジョンだという絶対的な諦観があるのだ。

反権威主義医療労働者の間では、政治的プロジェクトと言えば、多くは、街頭医師団・DIYハーブ療法プロジェクト・患者との対話方法を変化させる活動・他の急進的医療労働者と共に行う著作と宣伝活動プロジェクトなどである。HACでも、こうした類の活動家プロジェクトがセッションの大半を占めていた。確かに、こうしたプロジェクトは有益な貢献をできる。しかし、医療労働者権力を構築し、それを行使する広範な運動と結び付く方法を意図的に計画していなければ、そして、それまで政治的ではなかった医療労働者に手を差し伸べて参加してもらう能動的プロセスがなければ、こうしたプロジェクトは大抵、偏狭なサブカルチャーを生み出すだけで終わってしまう。社会の中で闘争するのではなく、社会から切り離されてしまうのだ。私達が直面している惨状に挑戦し、もっと広く言えば、こうした惨状を生み出している殺人的資本主義医療システムを攻撃する本物の戦略を示し、不満を持つ莫大な数の医療労働者を積極的に包含できる大衆運動がなければ、私達は孤立し続け、ほとんど無力なままとなろう。

BRRNメンバーとして、私達は、HACに参加し、医療における組織作りの観点がどのようなものか共有しようと思った。私達は、既定の活動家モデルとは別の選択肢があると示し、医療労働者が組織化に踏み出せるシンプルな方法--システム変革に、究極的には社会革命に必要なステップ--を共有しようと思った。

HACで、大会主催者が選んだスローガンは「病院を奪取せよ」だった。私達は、感情面でも現実の実践面でも、心から同意する。私達が同意するのは、達成するために充分な勢力と組織があれば、病院奪取は実際に可能だからである。医療システムを解放し、労働者・患者・地域の人々が管理するものに転じようとするなら、医療労働者として、確かに、私達は物理的に病院を奪取しなければならない。しかし、HACでは、残念ながら、過去の運動に関するいくつかの歴史的議論を除けば、どのようすればこのスローガンを現実のものにできるのか分からなかった。今ここで私達が行っていることと明確に結びつかない限り、急進的変革・大衆の集団行動・病院奪取・革命という考えは抽象的スローガンのままである。

医療団体組織という私達のヴィジョンを構築するため、私達はこの大会でパネルディスカッションを企画した。それぞれの医療労働者が職場組織作り経験を共有した。パネリストは幅広い経験について話していた。大都市の病院で労組に加盟している看護師は、ストライキを起こし、労組を変革すべく組織を作った。訪問看護の現場で労組に加盟していない看護師は、組織作りをする上で自分が取った最初の一歩を語った。あるソーシャルワーカーは、労働権法を認める州で労組を作るキャンペーンを成功させたことについて論じた。ある看護師は、南部の大学病院でキャンペーンが行き詰まったことについて課題を語った。私達は、医療での組織作りがどのようなものか実践例を示し、同じようなことを始めるモチベーションになるよう望んでいた。このワークショップでの会話とその後の反応から、上手くいったのではないかと思う。人々は、自身の職場経験に結び付け、自分が抱える課題にどう対処するかアドバイスを求めていた。他の医療労働者がそれぞれの病院でどのように勢力を構築し、病院を変革したかを見て、刺激を受け、自分達も行動を起こせると感じたと話していた。

私達は、組織作り経験に関するこのパネルティスカッションにワークショップを組み合わせた。ワークショップでは、医療における職場組織化ステップを分解し、それがいかに革命闘争に不可欠なのかを示した。ほとんどの医療労働者は職場で組織を作った経験したことがない。現代では、労組結成がほぼ最低の水準にあり、大抵、しっかり根付いた社会運動はオンライン活動主義に取って代わられている。私達は、職場のマッピング・1on1・組織委員会の構築といった基本的ツールを労働者に再び紹介し、これらを皆で実践することが重要だと考える。そのことで、この難しい課題を行う不安を同僚達と共に乗り越えられるようになる。このワークショップの成果は少々ばらついていた。ワークショップにいた数名が、1on1による組織作りモデルに不快感を表明した。私達は、同僚と意図的に会話し、話を聞き、扇動し、行動を起こすよう誘う。彼等の懸念は、一つの目的を持ち、組織作りキャンペーンに参加するよう求める意図を持って会話を始めるのは操作的に感じるというものだった。人生において一緒に物事を行うよう他者に頼まなければほとんど何もできない以上、これは権能を奪う残念な反応だと思う。ただ、他のワークショップ参加者は、組織作りスキルは有効で実践的だと思ったと話していた。

多くの場合、急進主義者はこうしたスキルを使えない。使える場合であっても、大抵、革命プロジェクトと結びついていない。労組は組織作りスキルを活用し、教示しているが、ほとんどの場合、それは独自のトップダウン型官僚制を発達させるためである。そして、こうした実践的スキルとあらゆる政治的内容とをあからさまに分離している。HACに私達が介入したのは、組織作りスキルが民主的自主組織構築に有用になり得、政治教育と階級規模の闘争と組み合わせて、国家と資本主義に挑戦する運動を構築できるようになると証明するためだった。

HACへの参加は、全国の医療労働者の情況を理解する機会だっただけでなく、組織作りの機会と課題を理解する機会でもあった。私達は知った。医療内部には急進的戦闘的組織作りのニーズが強くある。私達は目にした。この3日間の大会を創るために医療労働者グループが何カ月もの労力を厭わなかったし、全国から数百人が熱意を持って参加すべくやってきた。労組や「Do No Harm Coalition」「DPH Must Divest」といったキャンペーンで組織を作る運動をしている同志達とも出会った。しかし、アナキズムに共鳴している大会参加者のほとんどは大衆組織や戦略的権力構築を志向していなかった。関心がないからなのか、機会がなかったからなのかは分からない。

この志向性は、大衆組織・狭量な社会サークル以外の組織・権力構築を目指す組織構造、これらを構築するニーズがほとんど満たされていないからだと思う。私達は、医療における急進的組織作りモデルの実例を現実世界で増やし、推進し続けなければならない。そのことで、組織作りが、サポート文化を発展させるもっと持続的な方法・私達自身の権力を構築し行使する方法になり得ると示せるようになる。関連するが、労組に加入している参加者が比較的少数だったのは、医療における労組加入者が低いことを物語っている(多くの産業の中で高い方だとしても)。今回のような場で労組に参加していない医療労働者に手を差し伸べて、組織を作らねばならない。同時に、「Labor Notes」のような場で労組メンバー内の組織化も行わねばならない。

私達は大衆権力組織を志向してコンバージェンスに接したが、HACに反映された左翼とアナキストの活動主義の傾向を見て、懸念を覚え、冷静になった。同時に、こうした大会が存在するということ、そして主催者と参加者が大会を実現すべく進んで作業に取り組んでいたことは、医療労働者が革命的未来に向けて共闘する可能性を示す希望に満ちた兆候だと考える。HACが医療の戦闘的組織作りを成長・発展させる一翼を担ってほしいと願う。