タイトル: ウクライナとロシアの戦争に対して現在行われているサボタージュとレジスタンス(1)
発行日: 2022
ソース: https://note.com/bakuto_morikawa/n/n6e9831ebd4b4(2023年4月23日検索)
備考: ザ゠ファイナル゠ストロー゠ラジオ(TFSR)がウクライナとロシアそれぞれで活動するアナキスト゠グループにインタビューを行った。2回に分けて訳出する。最初のインタビューは、ハルキウで活動するニュースサイトAssembly.Org.Uaへのものである。 原文掲載日:2022年7月17日
原文:https://thefinalstrawradio.noblogs.org/#AssemblyOrgUA(bakuto morikawa より)

TFSR:自己紹介(任意の名前・政治的所属・ジェンダー代名詞など)をお願いします。また、大まかにどの辺を拠点にしているのか話してもらえますか?あなたの政治的見解のアイデンティティとどのようなプロジェクトで活動をしているのか教えてください。

チェー:皆さん、バースツ(訳註:司会者の名前)、リスナーの皆さん、こんにちは。私はチェ―です。ハルキウのカウンターインフォメーション゠グループ Assembly.Org.Ua. の共同創設者です。ハルキウは、キーウに次ぐウクライナ最大の都市で、ロシア国境から45㎞のところにあり、現在は北部から包囲されていて、これは侵攻初日の朝から続いています。私個人は、10年前から無政府共産主義者です。Assemblyの編集方針は大まかに言って社会的アナキズムに近く、この意味で、私達は、こうしたメディアとして1920年の新聞『ナバト』以降ではハルキウ初ですね。同時に、私達には、マルクス主義政党に入る時のようなイデオロギーや理論の厳しいテストなどありません。様々な人やイニシアチブと協力する用意があります。政治家や官僚構造に操られていなければ。下からの水平型直接行動を支持し、地元コミュニティの役に立ちたいと思っているのなら・・・まぁ、大体そうですね。

TFSR:Assembly.Org.Ua について話して頂けますか?ハルキウ地域の独立系ジャーナリズムや草の根活動のポータルだと名乗っていますね。私は2020年の投稿を見ました。新型コロナウイルスのパンデミックが始まった頃のです。このプロジェクトがどのようにして始まり、どのような目的を持ち、ロシアによる侵攻でこのプロジェクトと読者層がどのように変わったのかを話して頂けますか?

チェ―:はい、実際、私達は2020年3月30日から活動しています。すぐに、習慣的常態がついに崩壊したという気がしました。世界規模のパンデミックの始まりには驚かされました!いつも自宅にいるなんてあり得なかった。同志の職場の中には、給与を20%カットされ、一時解雇の恐れがあるところもありました。でも、隔離が始まって数週間で、私達はウェブサイトを発展させて深刻な社会問題について話し、危機に直面して互いに直接助け合えるよう人々の団結を支援し始めたのです。

私達の考えはこんな感じでした。例えば、公共交通機関について、この町の人口の少なくとも一割が市長や市議会よりも理解しているのなら、奴等の行政などいらないのでは?こんな感じでした・・・私達のジャーナルは、すぐに、平和的な社会闘争と自主組織が急進的地下組織と出会える場になりました。そして、その名(訳註:Assembly は「集会」「会合」の意)に相応しいものになり始めました。ストリートイベント・職場闘争・大都市の都市開発問題を取り上げました。同時に、革命的労働者の伝統に関する歴史的記録を復元しようとしました。戦争の勃発以降、私達のマガジンは自立的人道主義活動を紹介・調整すると共に、地元の支配階級がこの大量虐殺からどれほど利益を得ているのかを強調するプラットフォームになりました。昨年はひと月に1万~2万アクセスだったのですが、春先からは8万~12万アクセスに跳ね上がっています!

TFSR:ロシアとの戦争が始まってから、このラジオ番組で何度かハルキウの人達にお話を伺いましたが、もう数カ月前のことになります。戦争が始まる前のハルキウとハルキウが属する州や地域について話してもらえますか?

チェ―:一般に、ウクライナは、特にマイダン蜂起以後、将来性が低下し、アルコノート(大酒探検家)と年金生活者の国になりました。ウクライナの基準からしても、ハルキウは「退屈な顔の都市」として知られています。なので、政治的風土は、一般に、鬱屈していて保守的です。日々生きていくこと以外について話すのは極度に難しく、ウクライナの資本家さえも何かを企画する集中力を持ち合わせていません。戦後の経済復興でこの状況が変わるでしょうか?分かりません。いずれ分かるでしょう・・・

TFSR:この間、ハルキウや近隣にいらした方がどのような様子だったか少しオーディエンスに紹介してもらえますか?ロシア国境に近くとも、ハルキウはロシア侵攻を撃退して生き残っているわけですが、砲撃は続いていますよね?(これがどれほどトラウマになっているのか想像できませんが、私達のプロジェクトは間違いなく犠牲者の皆さんへの連帯と哀悼の意を表します)

チェ―:手短に言えば、私達の町は、その地理的位置のために、侵略者の大きな射撃場になっています。毎晩人々がベッドに行くとすぐに(もしくは、明け方午前3時~4時に)弾道ミサイルが飛んできます。さらに、多連装ロケットシステムが、人通りの多い日中に襲い掛かり、またしても、できる限り多くの民間人を殺すのです。これほど短距離で超音速イスカンデルを迎撃できる防空設備など世界にはありません。空襲警報さえも私達に知らせる時間がなく、最初の爆発があった後で鳴り始めています(いつもではありませんが、多くの場合そうです)。ロシア軍は、何が何でも交渉するようウクライナ当局を説得しています。そして、民間人の死傷者によって、ウクライナの住民が、その政治指導者に対してロシアに有利な譲歩をするよう仕向けたいと願っているのです。もちろん、ウクライナのHIMARS(高機動ロケット砲システム)は数分のうちに全ての射撃拠点を破壊できるでしょう。しかし、米国のパートナーは、私達がロシア領から何発砲撃されようとも、ロシア領土への攻撃を明確に禁じています。ロシア連邦に対するウクライナの侵略だと見なされ、米露の関係を悪くしてしまうからなのです。私達はこのように生きています。

TFSR:Assembly.Org.Ua の最近の記事の多くで、地元のエリート・投機家・資本家・銀行が、全国規模で(ロシアでもウクライナでも)不安定な情況や壊滅的情況を利用しようと企んでいたり、今まで以上に経済的に不安定な人々に経済的暴力を増大させようとしたりしていることに焦点が当たっていますね。交戦地帯での災害資本主義をどのように見られていますか?また、その将来像をどのようにお考えですか?

チェ―:あぁ、そうした例は膨大にあります。人道的物品を販売したり、従業員の賃金を盗んだり。あなたが仰った、7月9日に第一読会で可決された、戦争中の住宅ローンと自動車ローンの支払いを停止する法案もそうです。この法案は、ローン本体と利息の発生を停止するものではない。そのため、戒厳令が終われば、借り手は多額の未払債務の支払いを余儀なくされる。そうしなければ、法律や融資契約で定められた制裁を受けることになる。同じ文脈で思い出されるのが、より安全な地域での途轍もない賃貸価格の高騰です。また、ハルキウ当局(そして、当局と関係のある開発者)は、爆撃で損傷した歴史的建物を復元せずに取り壊して、商業施設を建設する計画を立てています。ところで、この春、ハルキウ市議会は、都市を復元するための、いわゆるボランティア゠イニシアチブを発表しました。これを率いるのは、建築家でも都市プランナーでもなく、市議会に関わりのある一人の服飾デザイナーだったのです。明らかに、当局者がこれを隠れ蓑にして予算を盗もうとしたのです。私達は、このオトモダチが誰で、彼の役割について確実に分かっていることを暴露した記事を発表し、その後、彼はこのプロジェクトから手を引きました。

TFSR:ハルキウでの戒厳令と徴兵の経験について話して頂けますか?

チェ―:全体的に、何も面白くはありませんよ。午後10時から午前6時までは外出禁止令です。特別許可なく街路に出ている人を警官が捕まえようとします。ただ、周辺地域ではパトロールがほとんどないようです。軍隊への召喚状が地下鉄の入り口・スーパーマーケット・企業・公園など多くの公共の場で配布されていますが、法律で事前提出が義務付けられていて、役人の立ち合いなしに街頭で記入することは違法なので、召喚状は大抵無視されます。裁判制度が事実上麻痺しているので、今は、違反したところで罰金を科されません。春の終わりには、召喚状が現在配布されている場所を知らせるテレグラム゠チャンネルが登場し、6万5千人が登録しています。そのため、住民達はこうした強制召喚を前もって知っていて、避けようとしています。

どうやら、軍事委員会の仕事は、軍隊の補充だけでなく、できるだけ多くの徴兵を強要することでもあるようです。少なくとも、強要された人たちの中には、怖がって、徴兵されないようにするためにお金を出す人がいるだろうと期待しているのです。同じ理由で、自分の意志で軍隊登録しに来ている多くの人が入隊できず、18歳から60歳までの指定された健康な男性は皆出国を許されていません。法的な出国根拠があっても、国境警備隊が出国させるとは限りません。

一般的に言って、民衆が軍事の基本をマスターすることはそれほど悪いことではありません。1905年ですら、これがなければ革命は忘れ去られてしまいかねないと示していました。侵略の撃退も必要ですが、勝利の結果ウクライナ国家がさらに強くなるのを助けてはなりません。その場合、ウクライナ国家はロシア国家と同じ独裁になってしまうからです。だから、私達は、ロシアでの反戦サボタージュも、ウクライナ軍にいるアナキストの知人達も、兵役を望まない全ての人達が自由に出国できるようウクライナ国境を開放する要求も、支持しているのです。

TFSR:ハルキウ州への侵攻に対抗して(侵攻にもかかわらず)行われている草の根相互扶助イニシアチブについて、あなたが見たり、報告できたりしたことを話してもらえますか?

チェー:そうですね、前の質問でその一つについてお答えしました。また、私達のチームは、折を見て、この地方で経済不況に陥っている地域や近くのハルキウ郊外に行き、そこから動けない人々が国家の外でどのように暮らし、人道的食料や医薬品をどのように分かち合っているのか学んでいます。さらに、荒廃した街区を集団的に復元する水平型キャンペーンの計画も準備しています(「ビルディング゠エイド」というグループのような、幾つかの親しいグループと共に)。もちろん、ロケット弾の攻撃が完全に終わってからでないと始められないのですが・・・

まとめると、ウクライナの諸条件が持つあらゆる特殊性のために、これほど皮相的な国でアナキズム闘争を行うには、世界的な国際連帯が必要です。ウクライナ経済のテクノロジーは原始的で、事実としてその半分が地下経済です。逆説的に言えば、だから危機の時代に適応しやすいのです。しかし、同時に、民衆全体がその場その場の日常的諸問題に集中しているため、将来に向けた壮大なプロジェクトに無関心な雰囲気ができている。辺境における社会思想は資本主義中心部の情況に主として左右されるため、西欧諸国の同志達の成功がウクライナに革命的アナキズムを広めてくれるでしょう。この血塗られた数カ月間で、労働者階級は既に優れた自主組織能力を証明しています。

TFSR:私達があなた方のジャーナリスティック゠プロジェクトを見つけたのは、Libcom などのサイトで、ロシア軍へのサボタージュや徴兵拒否という形で戦争へのレジスタンスが広がっているという英語の投稿があったからです。3月以降、ロシアの新兵採用センターを襲撃する画像やビデオを目にし、鉄道が破壊された話を耳にし、ロシア軍の中にウクライナ人に対する戦争について不信感と嫌悪感が高まっていると聞きました。米国にいると、何が米国政権のプロパガンダなのか判断するのが難しいのですが、このことに関するあなた方の取材について話してもらえますか?どのような情報ソース(もちろん、秘密は守ります)を使っているのでしょうか?ロシア内で増加しているレジスタンスについてのあなた方の印象はいかがでしょうか?

チェー:あぁ、Libcom に英語で投稿している軍事問題の記事は、私達のマガジンの中身とは全く違います。『Assembly』には地元の情報源から得た地元のニュースだけを載せています。私達にはロシアやベラルーシの消息通などいません。ソーシャルメディアやマスメディアで公開されているデータインテリジェンスを使って情報を集め、体系化して結論を出しているだけです。

英国の読者は何が起こっているのか正しく表現しています。「多くのロシア人がこの戦争を支持しているはずだとよく言われるが、アフガニスタンやイラクを侵略した時に、住民が一般に反戦的だとされている同盟諸国でさえも、これほどのレジスタンスは見たことがない。」とてもクールな言葉だと私は思います。

TFSR:私達はロシアを拠点にしている無政府共産主義戦闘組織(BOAK)とロシア内部でのレジスタンスとサボタージュについて話をしました。彼等は明確な希望を持っています。サボタージュとレジスタンスによって、ロシア内部からウクライナの殺戮への抵抗が構築されるだけでなく、ベラルーシを含む地域で権威主義的資本主義に対する抵抗が拡大する時期だと言うのです。あなたは、この地域での反権威主義左翼政治による反戦・反独裁抵抗に見込みがあるとお考えですか?

チェー:1917年2月のように抑圧機構が陥落すれば、そうした攻撃は、全体主義ロシア国家のシステム全てに重大な脅威となるでしょう。大雑把に言って、警官・秘密諜報機関・裁判所が以前のように機能しないのだと大衆が分かれば、革命闘争は幾何級数的に進展していきます。現段階で、未だにそのような兆候はありません。反戦の声を上げただけで、ロシア国家はその人を15年も投獄できるのですから。確かに、下から戦争に抵抗する直接行動が増えていると言えますが、今日、それがどこまで進むのか誰にも言えません。この虐殺がいつまで続くのか誰にも分からないからです。

そして、ゼレンスキーの権力を中心としたウクライナの全国的団結が依拠しているのは、外的脅威への恐怖だけだということを考慮しなければなりません。既にお伝えしたように、ウクライナの社会矛盾は戦争中もなくなっておらず、逆に、一層ひどくなっている。侵略軍が攻撃能力を失うのが早ければ早いほど、ウクライナの社会闘争にとっては望ましい。だから、ロシアでの反戦サボタージュは間接的に、ウクライナの支配階級にとっても脅威なのです。だから、私達は、こうした情報提供は国際主義的行動だと考えているのです。

TFSR:喪失と暴力に満ちた危険な時代に、希望をもたらしてくれることを何か共有していただけますか?

チェ―:まず、世界中の人達が私達の活動に関心を持ってくれていることです。そして、私達の都市と地方が持つ輝かしい革命的歴史の研究、戦争前に事実上私達だけが行っていた記憶の復元。もちろん、地元の素晴らしい自然もそうです--今ある範囲に限られますが・・・

TFSR:リスナーが Assembly.Org.Ua の活動を常に把握し、支援するにはどのようにすればいいでしょうか?また、ここで伝えておきたい他のイニシアチブなどはありますか?

チェ―:Assembly.Org.Ua のサイトでも、Libcom.Org の Assembly.Org.Ua タグでも、私達のリソースにお気軽にアクセスしてみてください。私達の活動がもっと広く理解され、もっと体系的になり、質がより高くなるために、GlobalGiving の Mutual Aid Alert for East Ukraine ページで資金援助をしていただけます。是非、ご覧ください!西部・中央ウクライナの同志達のグループ、「黒旗」についてもお伝えしておきます。Libcom のコラムで彼等の活動を書いていますし、彼等のテレグラムチャンネルも書いています。また、フランスの Solidarity Initiative Olga Taratuta、スペインの alasbarricadas.org、ロシアの aitrus.info、その他私達の資料を広めてくれている同志達に大変感謝しています! この会話を聞いている皆さんにも感謝します!

この機会に、It's Going Down や Crimethinc のような米国の主要アナキスト゠メディアにご挨拶させてください。社会的アクティヴィズムに一度も参加したことのない一部のサブカルチャーを除き、私達や他のウクライナのアナキストを無視し続けていますね。そうですね。こんな感じです。ご清聴ありがとうございました!